使わなければ話にならない「接触要素」(その1)CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(12)(4/5 ページ)

» 2024年09月12日 09時00分 公開

接触要素を使った計算の中身

 接触要素を使った場合の計算方法ですが、探してみると日本語の文献を見つけることができます。しかし、その文献の内容と海外製プログラムのアルゴリズムが一致している保証はなく、かつ市販CAEソフトはプログラムが公開されていないため、断片的な情報をかき集めて足らない部分は筆者が推測して説明します。

 接触要素を使ったモデルの解法として、以下の3つがあるといわれています。

  • ラグランジュ未定乗数法
  • ペナルティ法
  • 拡大ラグランジェ法

 「ラグランジュ未定乗数法」は、以前お届けした形状最適化のシリーズで出てきましたが、接触要素となるとかなり内容が異なります。ここでは「ペナルティ法」を説明します。「拡大ラグランジェ法」はペナルティ法の改良版です。筆者が使っているソフトは拡大ラグランジェ法がデフォルト設定となっています。

 図15に2つの部品が接触しているときの状態を示します。接触している部品表面に接触要素は隙間なく、図8のような感じで配置されています。接触要素には「マスター要素」と「スレーブ要素」があります。図15では、2つの部品が干渉しており、互いに食い込んでいる部分を「食い込み量」といいます。マスター要素にスレーブ要素の節点が食い込んでいると考えます。

接触要素と食い込み量 図15 接触要素と食い込み量[クリックで拡大]

 ANSYSでは「Target要素」がマスター、「Contact要素」がスレーブとなります。ペナルティ法では食い込んでいたらペナルティを科します。ペナルティとして図にばねを描きました。食い込みが発生している部分では、ばねは伸ばされており、その反力を発生させます。食い込みがない部分に青色で描いたばねがありますが、隙間のあるところのばねにはペナルティが発生しません。プログラムは常に接触判定を行っており、食い込みの有無に従って反力を発生させています。このことから、接触要素を含むモデルの計算は1回で済まないことが分かります。このような計算を「非線形解析」といい、かなりの計算コストがかかります。非線形解析については次項で述べます。

 図16に、ばねによる反力と部品の変形による反力を示します。スレーブ側節点とマスター側節点に、同じ大きさで方向が反対の反力を発生させます。そうでないと力のつり合いが破綻します。

接触要素に発生させる反力 図16 接触要素に発生させる反力[クリックで拡大]

 最初の計算では、図16左図のように食い込みがありますが、反力によって部品が変形します。最終的には食い込みが許容値以下になるまで部品の変形が進み、許容値以下になったときに計算が終了します。食い込みが大きいほど反力も大きくしなければならないため、ばねとして表現しましたが、食い込みがなくなっても反力はゼロにはなりません。この反力は部品の弾性変形による反力です。図9右図の接触圧力に相当します。

 食い込みが大きいほど反力も大きくする必要があるため、ばね定数のようなものが定義されています。これを「接触剛性」といいます。筆者が使っている有限要素法ソフトの接触剛性のデフォルト値はヤング率です。ヤング率とばね定数とは単位が異なるのでヤング率に何かを掛けていると思います。とても剛性が大きいですね。計算が収束(後述します)しないときは、接触剛性を10分の1倍や100分の1倍にします。この影響として、計算終了時の食い込み量が増えます。簡単に曲がる板と鉄の塊を接触させたときに接触剛性の操作が必要になったことがあります。

 以上は、接触要素のごく簡単な内容で、実際には計算速度を上げるためと、少々無理なモデルでも計算が収束できるように、たくさんの工夫がプログラムに詰まっていると思います。この工夫の質と量がソフトの実力差となっているのでしょう。

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