IoTを革新するマイクロ波給電、東芝が5.7GHz帯の事業化で協業を推進組み込み開発ニュース(1/2 ページ)

IoTデバイスの普及で大きな課題になるのが電力供給である。その有力な手段として検討が進む「マイクロ波給電」で5.7GHz帯に絞って開発を進めているのが東芝だ。同社はTOPPANグループ傘下のアイオイ・システムとの共同開発成果として、「国際物流総合展2024」でデモ展示を行う予定だ。

» 2024年08月23日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 IoT(モノのインターネット)デバイスを社会のさまざまな場所に張り巡らせていく上で最大の課題になるのが電力供給である。インターネットとつなぐための無線通信にはさまざまな手段があるものの、IoTデバイスが動作を続けるためには何らかの形で電力が供給されなければならない。しかし、IoTデバイスは必ずしもケーブルを使って電力を供給できる場所に設置できるとは限らない。電池を使えば電源ケーブルは不要だが、電池の電力を使い切った場合には交換が必要になる。

 そこで、IoTデバイスに電力供給を行うための有力な手段として検討が進んでいるのが、数百M〜数百GHzの周波数帯であるマイクロ波を用いて無線給電を行う「マイクロ波給電」だ。現時点で実用化されている無線給電方式は、送電側と受電側をほぼ密着させるか数cm〜数mと短い距離でしか電力を送れないが、空間伝送方式と呼ばれるマイクロ波給電は数m〜10mと実用的な長距離で電力を送ることができる。

無線給電の種類と仕組み 無線給電の種類と仕組み。マイクロ波給電は数m〜10mと実用的な長距離で電力を送ることができる[クリックで拡大] 出所:東芝
マイクロ波給電のユースケース例 マイクロ波給電のユースケース例[クリックで拡大] 出所:東芝

 国内では総務省が中心になってマイクロ波給電の法整備を進めている。利用可能な周波数帯は920MHz、2.4GHz、5.7GHzの3つだ。2022年の法改正では、屋内での利用限定、人の立ち入り時に給電停止、管理区域内でのみ使用可能といった条件付きでマイクロ波給電を利用できるようになった。今後も、第2ステップとして2025年に法改正される予定で、2027年以降には第3ステップの法改正も検討されている。

マイクロ波給電の法整備の方針 マイクロ波給電の法整備の方針[クリックで拡大] 出所:東芝

 2024年4月にはスタートアップのエイターリンクが920MHz帯を用いる「AirPlug」の一般販売を開始している他、さまざま企業がマイクロ波給電の商用化に向けた研究開発を進めており今後の市場拡大が期待されている。

5.7GHz帯は送電できる電力と給電ビームの高精度制御で有利

 このマイクロ波給電において5.7GHzの周波数帯に絞って技術開発を進めているのが東芝である。2018年に基礎技術を発表した後、2023年12月にはIoTデバイスへの電力供給で大きな課題になる5GHz帯Wi-Fiとの共存を可能にする改良も行っている。

 そして、東芝本体で開発したマイクロ波給電技術の事業化に向けた動きも本格化している。東芝インフラシステムズが、TOPPANグループ傘下のアイオイ・システムと共同で、業界初とするマイクロ波給電技術を適用したデジタルピッキングシステムを開発したことを発表したのである。同システムは「国際物流総合展2024」(2024年9月10〜13日、東京ビッグサイト)のTOPPANグループの展示ブースで披露される予定だ。

 東芝が5.7GHzの周波数帯でマイクロ波給電技術の開発を続けてきたのは、高効率で高い電力を給電できるとともに、給電ビームを高精度に制御できることが背景にある。例えば、給電電力については数m先の距離に最大数百m〜数Wの無線給電が可能としている。

マイクロ波給電技術の周波数帯ごとの特性 マイクロ波給電技術の周波数帯ごとの特性。東芝は5.7GHz帯に絞って開発を進めてきた[クリックで拡大] 出所:東芝

 また、東芝の開発成果としては、多数の機器からの要求を満たすように給電ビームを最適時間間隔で切り替える「最適時分割給電」により全体を同時給電する従来手法より約40倍早く要求値を充足可能なことや、受電側が移動する場合もビーコン信号を検出する「ターゲット追従」により給電ビームを制御できることなどが挙げられる。

「最適時分割給電」と「ターゲット追従」の技術も開発した 「最適時分割給電」と「ターゲット追従」の技術も開発した[クリックで拡大] 出所:東芝
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