NTTと岡山大学は、トポロジーの原理を利用してGHzレベルの超音波振動を制御する回路(ギガヘルツ超音波回路)を実現したと発表した。トポロジーの原理に基づくGHz超音波回路は「世界初」であり、GHz超音波回路として「世界最小」も実現したという。
日本電信電話(NTT)と岡山大学は2024年7月16日、トポロジーの原理を利用してGHzレベルの超音波振動を制御する回路(ギガヘルツ超音波回路)を実現したと発表した。トポロジーの原理に基づくGHz超音波回路は「世界初」(両者)であり、GHz超音波回路として「世界最小」(同)も実現したという。新技術を用いて製造したギガヘルツ超音波回路のサイズは従来比で100分の1以下に小型化できており、ハイエンドスマートフォンで100個近く用いられている超音波フィルターの小型化だけでなく集積回路化や多機能化などにつながる可能性がある。
スマートフォンやIoT(モノのインターネット)機器などの無線通信端末は、無数の電波が飛び交う中で混信を避けるため、所望の信号だけを精密に抽出して受信できるように搭載しているのが超音波フィルターである。超音波フィルターの信号伝達に用いる超音波は、波長が同じ周波数の電気(電波)の約10万分の1と短く信号損失も小さい。つまり、通常の電波と比較してずっと細かな波を用いており、エネルギーの素子外への漏れも極めて小さいので、電子部品で構成する回路と比べて圧倒的に小さく省電力なフィルターを実現できる。
超音波フィルターとして代表的なのがSAW(表面弾性波)フィルターだ。SAWフィルターでは、圧電基板上の端部にくし形電極が2つ形成されており、一方の電極にアンテナから受信した電気信号が入力されると、くし形電極を介して超音波の一種である表面弾性波に変換され、圧電基板上を伝わってもう一方のくし形電極に伝搬され、再度電気信号に変換して取り出すことが可能になる。電気信号から超音波信号への変換は電極の構造によって決まり、特定の信号だけを取り出すバンドパスフィルターや、特定の信号だけを通さないバンドストップフィルターなどが実現されている。
無線通信端末は、LTEや5G、Wi-Fi、Bluetoothなどさまざまな通信方式に対応するだけでなく、国や地域、通信キャリアによって異なるさまざまな通信帯域に対応しなければならない。このため、ハイエンドスマートフォンは100個近い超音波フィルターを搭載していると言われており、今後より高度に発展するであろうIoT社会では、ますます多くのフィルターが必要になるとみられており、さらなる小型化が求められる。そのためには、電子回路を集積した半導体のように、細い経路(導波路)に振動を閉じ込めて所望の方向に導くことができる超音波回路が必要だ。しかし、導体に沿って流れる電流とは異なり、超音波を曲げるように伝達させることは難しく、急な方向の変化はすぐに後方反射を引き起こしてしまうため、これまで微細な超音波回路の実現は困難だった。
この微細な超音波回路の実現を可能にしたのが、物体の形状や空間の性質を研究する数学の一分野であるトポロジーだ。NTTと岡山大学が開発した、ギガヘルツ超音波の後方への反射を抑えて伝搬できる「トポロジカル超音波回路」では、回路を伝わる超音波が周囲の周期孔の形状によって作られるトポロジカル秩序で守られており、導波路の形状に関係なく、超音波は反射せずに滑らかに伝わるようになっている。
今回の発表における検証では、従来技術を使うと数万μm2ほどのサイズになる超音波フィルターについて、トポロジカル超音波回路を利用することで100分の1以下となる数百μm2に小型化することに成功した。なお、トポロジカル超音波回路の構造設計は岡山大学が、微細加工と振動計測はNTTが担当した。
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