AI医療機器やGCP査察を巡る多国間連携と働き方改革、日本のPMDAの対応は海外医療技術トレンド(109)(2/4 ページ)

» 2024年07月12日 08時30分 公開
[笹原英司MONOist]

コロナ禍を起点とするGCP査察業務の変化

 米国、カナダ、英国の規制当局間の連携活動は、AI医療機器だけでなく、コロナ禍におけるデジタル化/遠隔化を起点とした規制監督業務の働き方改革に広がりつつある。例えば、米国FDA、英国MHRA、カナダ保健省は共同で、2024年2月13日〜15日、「グッド・クリニカル・プラクティス(GCP)&医薬品安全性監視コンプライアンスシンポジウム」を開催している(関連情報)。

 このシンポジウムは、以下のようなアジェンダになっている。

  • 1日目(2024年2月13日)
    • 1日目の開会あいさつ・基調講演
    • セッション1:GCPのハーモナイゼーション:ICH E6(R3)のアップデート
    • セッション2:臨床試験における技術 - デジタルヘルス技術(DHT)
    • セッション3:分散型要素とGCP査察による臨床試験
    • セッション4:ICH E6(R3)草案 - グッド・データガバナンス・プラクティス
    • 1日目のラップアップと閉会あいさつ
  • 2日目(2024年2月14日)
    • 2日目の開会あいさつ・基調講演
    • セッション1:臨床試験における臨床試験依頼者の監視
    • セッション2:ポストパンデミックの臨床試験 - 働き方を確立する積極的破壊か?
    • セッション3:GCP査察の将来
    • セッション4:当局のアップデート:政策、ガイダンス、イニシアチブ
    • セッション5:当局間の協力関係と将来の見通し
    • 2日目のラップアップと閉会あいさつ
  • 3日目(2024年2月15日)
    • 3日目の開会あいさつ・基調講演
    • セッション1:遠隔評価
    • セッション2:生物学的分析の課題
    • セッション3:臨床試験の実施
    • セッション4:国際的協力関係
    • セッション5:査察の将来
    • セッション6:規制のアップデート
    • シンポジウムのラップアップと閉会あいさつ

 今回は、米国FDAからの発信情報に焦点を当てて、コロナ禍を起点としたGCP査察を巡る働き方改革の動向をみていく。

デジタルヘルスを利用した臨床試験に対するGCP査察の変革

 このシンポジウムでは、本連載で度々取り上げてきたデジタルヘルスがテーマの一つになっている(関連情報)。ここでは、デジタルヘルスについて、臨床試験の一部として捕捉・報告される電子データのデータライフサイクルの中のあらゆる地点で有効活用されるような機器、ツールまたはプラットフォームと定義している。これには、電子データの収集、管理、転送、保存または報告に使用されるコンピュータシステム、ソフトウェアアプリケーション、入力センサー/機器のほか、遠隔データ収集ツール(例:患者報告アウトカム(ePRO)機器/ソフトウェア)が含まれる。

 FDAは、デジタルヘルス技術に関する査察のケーススタディーとして、新規化合物におけるePROの事例を報告している。遠隔ePROデータ収集の採用によって、「ALCOA+の原則」(帰属性、判読性、同時性、原本性、正確性、完全性、一貫性、耐用性、可用性)に基づくデータインテグリティ上のメリットを享受できる反面、査察上、新たな課題も見受けられたという。

 FDAによる査察の結果、アクセス制御に関連して、設定された暗証番号(PIN)が共通になっているケースや、参加者の誕生日になっているケース、セキュリティに関する質問と回答のパターンが類似しているケースなど、ePROのエンドポイントの有効性データに異常なパターンが見受けられた。本ケーススタディーでは、このような状況が見受けられた場合の査察結果について、以下のような課題を例示している。

  • 複数のFDA Form 483sが交付される
  • データの信頼性に関する懸念
  • 有効性分析からのデータ除外
  • 大規模なプロトコルの変更とFDAレビューにおける遅延
  • 他の規制機関による精査

 これに対してFDAは、以下のような課題解決案を例示している。

  • 重要品質特性(CQA)プロセスの特定
  • データの帰属性の保証
  • 目的に合ったデジタルヘルス技術の選定または設計
  • デジタルヘルス技術設計におけるステークホルダー(例:臨床試験参加者、サイトスタッフ、サービスプロバイダー)の関与
  • 堅牢なデータデータアクセス制御(例:生体認証、多要素認証)
  • 使い勝手にあまり影響を及ぼさないような。意図するセキュリティの達成
  • ユーザー管理プロセスと手順
  • 教育:サイトスタッフのトレーニングと再トレーニング
  • データのモニタリング
    • 有効性データ:異常の集中型モニタリング
    • ePRO:ユーザーアクセス情報のモニタリング
  • 共通または生年月日に基づく暗証番号(PIN)
  • セキュリティに関する質問と回答に関する異常なパターン

 参考までにFDAは、遠隔データ収集目的のデジタルヘルス技術に関連して、2023年12月20日、「臨床試験における遠隔データ収集向けのデジタルヘルス技術 - 業界、臨床試験実施責任者およびその他のステークホルダー向けガイダンス」を公表している(関連情報)。このガイダンスは、医療製品を評価する臨床試験において、参加者から遠隔によるデータ収集を行うデジタルヘルス技術(DHT)利用に関して、臨床試験の依頼者(Sponsor)や実施責任者(Investigator)およびその他のステークホルダーに対する推奨事項を提供することを目的としており、以下のような構成になっている。

  • I.イントロダクション
  • II.背景
  • III.規制の考慮事項と当局の関与
  • IV.臨床試験におけるデジタルヘルス利用時の考慮事項
    • A.デジタルヘルス技術の選定と臨床試験における利用の根拠
    • B.提出時のデジタルヘルス技術の記述
    • C.デジタルヘルス技術の検証、バリデーション、ユーザビリティ評価
    • D.デジタルヘルス技術を利用して収集したデータを含む臨床エンドポイントの評価
    • E.統計分析と試験設計の考慮事項
    • F.デジタルヘルス技術を利用する際のリスク考慮事項
    • G.記録の保護と保持
    • H.臨床試験期間中にデジタルヘルス技術を利用する際の他の考慮事項
  • 用語集
  • 附表A.臨床試験における潜在的なデジタルヘルス技術(DHT)利用の例
  • 附表B.臨床試験向けのデジタルヘルス技術(DHT)選定とそれが利用されるエンドポイント正当化の例

 デジタルヘルス関連企業は、デジタルヘルスを利用した臨床試験に関わるGCP査察についても、各国規制当局間のハーモナイゼーション動向を注視する必要がある。

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