東京大学は、室温かつゼロ磁場の条件下で異常ネルンスト効果を発揮する薄膜を、鉄とスズから作製した。横型熱電効果で、大面積でフレキシブルなデバイス構造を低コストで作製することが可能となる。
東京大学は2024年5月28日、室温かつゼロ磁場の条件下で異常ネルンスト効果を発揮する薄膜を、鉄(Fe)とスズ(Sn)から作製したと発表した。異常ネルンスト効果は温度勾配と磁化に直交方向に現れる横型熱電効果で、大面積でフレキシブルなデバイス構造を低コストで作製できる。
研究では、成膜技術の1つであるスパッタリング法を用いて、カゴメ面が膜面内にそろったトポロジカルバンド構造のFe3Snエピタキシャル薄膜を作製。この薄膜の面内方向の磁化の磁場依存性を調べたところ、ゼロ磁場下で自発磁化が生じることが判明した。これは薄膜形状の形状磁気異方性と結晶磁気異方性により、膜面内で磁化方向が安定化したためと考えられる。
面直熱流を加えた横型熱電応答の観測では、ゼロ磁場での自発磁化による異常ネルンスト効果の発現を確認。室温における単位熱流当たりの横熱起電力は、Feやパーマロイ(Py)などの一般的な磁性体材料よりも10倍程度大きい約0.22μVm/Wを示した。最大クラスの異常ネルンスト効果が得られる既知のトポロジカル磁性体と同程度の値だ。
Fe3Snは、ノーダルプレーンと呼ばれる特有のトポロジカル電子構造を有している。安価で安全なFeとSnを原料に量産化が可能であることから、熱流センサーなどの薄膜型熱電デバイスへの応用が期待される。
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