強度が必要な部品の設計や部品選定をする際には、予想外の大きな力を受けたときにも壊れぬよう、ある程度許容荷重に余裕を持たせる必要があります。この余裕の倍率のことを「安全率」と呼びます。例えば、衝撃荷重が作用する部品を設計する際、その衝撃荷重を正確に計算することは非常に困難です。とはいえ、計算ができなければどの程度の強度が必要なのかを判断できません。ですから「衝撃荷重が作用する部分については、安全率が○倍以上になるよう設計する」というような形で安全率を使用するのです。
特に、検討漏れしやすいのが「非常停止時に受ける荷重」についてです。通常運転時、可動部の加減速が緩やかだったとしても、非常停止ボタンが押されれば設備はすぐさま安全な状態で停止しなくてはなりません。その際、装置や部品は衝撃力とみなせるほどの慣性力を受けるため、その力は意外と大きなものになります。ですから安全率の設定が非常に重要となります。
ちなみに、筆者はこれまで「安全率はいくつにすればよいか?」という問い合わせを何度も受けたことがあるのですが、これに回答するのは容易なことではありません。例えば、安全率の中で最も有名なものが「アンウィンの安全率」と呼ばれるもので、これを社内の設計基準として採用している企業もあります。しかし、このアンウィンの安全率は過剰だという意見もあり、必ずしも信用性が高いものだとはいえないようです。
一方で、航空業界や自動車業界では安全率を低く抑えています。一般的に安全率が低いと材料コストを削減できたり、軽量化によって燃費性能が向上したりする傾向にあります。しかし、だからといって安易にこの数値を採用するのはリスクが高いです。というのも、この安全率の設定は、
などが大前提になっているからです。
安全率は、装置や装置が実際にさらされる状況を想定し切れていないほど、また整備やメンテナンスの実施ができないほど高く設定せざるを得なくなります。特定の業界の設計基準には明確な数値が記載されていることもありますが、数値を安易に参照するのではなく、品質管理や定期メンテナンスなどの背景もしっかりと確認し、実施可能であるかどうかを関係者間で合意を取りながら判断する必要があります。
ちなみに、購入品を選定する際、メーカーのカタログに記載の許容荷重の値は、安全率を考慮していない数値である場合もあれば、安全率を考慮した上での数値であることもあります。さらに、何を想定した安全率であるかについても、それぞれで違うケースがあります。ここを見落としてしまうと、強度不足になったり、過剰スペックになったりしてしまうので、しっかりと確認するように心掛けましょう。
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