配電用変圧器で発生する電力損失は、待機時の無負荷損と電力変換時の負荷損に分けられる。このうち無負荷損は鉄心の素材について、一般的に使用されているケイ素鋼板からアモルファス合金に置き換えることで大幅に低減することができる。日立産機システムは、このアモルファス合金製の鉄心を用いたアモルファス変圧器の開発と生産を長年積み重ねてきたことが強みとなっている。
藍原氏は「アモルファス変圧器の電力損失が小さいことは広く知られているが、ケイ素鋼板と比べて薄くて硬くてもろいアモルファス合金を用いて変圧器の鉄心を製造することは容易ではない。また、アモルファス変圧器は効率は高いものの、大きく重くなりがちという課題もある。これらの課題を克服するとともにさらなる性能向上を可能とする、アモルファス変圧器に関する技術とノウハウで国内市場をリードしているという自負がある」と説明する。
近年はカーボンニュートラルへの対応もあり、高効率のアモルファス変圧器の需要が高まっている。2022年度、2023年度と前年度比50%増で売上高が伸びており、2024年度も同等の勢いだという。配電用変圧器全体で見ても約20%を占めるようになっている。
また、アモルファス変圧器では、絶縁油を鉱油から大豆油に変更した「奏シリーズ」も展開している。大豆油は植物由来なのでカーボンニュートラル対応の効果が大きく、生分解性があるので廃棄時の環境負荷削減にもつながる。「価格は高くなるが、環境意識の高い顧客を中心に受注が伸びている」(藍原氏)という。
日立産機システムの配電用変圧器事業にとって、さらなる拡大に向けた施策となるのが三菱電機 名古屋製作所の配電用変圧器事業の買収である。
配電用変圧器の国内市場において両社はリーダー企業の位置付けにある。藍原氏は「リーダー企業が一緒になることで、配電用変圧器で国内トップの地位を確実なものにしていく」と強調する。
今回の買収は、2024年10月から段階的に進め、2026年4月1日に完了する予定である。その間、三菱電機 名古屋製作所から配電用変圧器事業に関わる開発や設計、製造、販売、保守に関する人材/資産を中条事業所に移管していくことになる。また、三菱電機 名古屋製作所で取引のあった協力企業との関係も、名古屋から中条への物流を最適化するなどして維持して行く方針である。なお、中条事業所への事業移管では建屋の新設などは行わず、現在ある建屋内の機能再配置や効率化などによって対応する計画だ。
今回の三菱電機からの事業買収は、2026年度からスタートする配電用変圧器のトップランナー基準強化への対応を強く意識したものだ。藍原氏は「今回の第3次トップランナー基準は、2019年度の第2次トップランナー基準からエネルギー消費効率を11.4%向上することが求められる。この厳しい基準に対応するとともに、業界全体の高度化や高付加価値化をけん引するためには、両社の配電用変圧器事業をしっかり融合させる必要があり、買収作業を着実に進めていきたい」と述べている。
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