「設計者にCAEを使ってもらう」という考え方はもうやめようと思います。これまで長い間、ずっと下手に出て、こびて、設計者にCAEを使ってもらおうと頑張ってきましたが、40年以上続けても大した成果は得られませんでした。
もちろん、設計者が上手にCAEを活用している企業はあります。そのほとんどは、設計者の努力によって成し遂げられています。
設計者に「CAEがないと仕事にならない!」と言ってもらいたいのです。設計者が設計に役立つと思ってこそのCAEです。そのための「はじめの一歩」は、まずCAEや解析に対する意識を変えることです。
設計者の意識していることと、解析専任者の意識していることに大きなギャップがあります。解析専任者の軸足は解析そのものにあります。これは当然のことであり、いけないことではありません。しかし、思わず「こういうソフトウェアで、こういう解析ができる」という説明をしてしまいがちです。このようなツール機能ドリブンのCAEの設計者に対する提案は、単なるツールの押し付けになってしまいます。
設計者は常にQCDを意識しており、そのためのCAEを期待しています。一方で、解析専任者は、設計で必要とされる高度な解析の精度を上げることを目的としています。設計者と解析専任者のこの認識の差異が、CAEが一時的な検証ツールから設計に必要なツールへ変貌できない根拠です。この意識の格差を最小にするのが「逆算のCAE」です。
逆算のCAEを実施するためには、次の3つの変更が必要です。
設計目標を2軸で表現しました。決められた期限までに、決められた性能目標を達成する、ということになります(図2)。
横軸の期限には、いろいろな種類の期限があります。出図の期限、試作の期限、実験の期限などなど……。この期限はよほどのことがない限り厳守される最優先事項です。製品が複雑化し、設計に必要な解析の難易度は高くなりつつあります。難易度に比例して工数もかかります。期限を厳守するために、解析専任者に丸投げ依頼することになります。期限内に収めたり、期限を短縮したりするためには、解析の効率化と高速化がキーになります。そのためには、CAEの自動化が必要不可欠です。
縦軸の要求仕様は、製品の複雑化、要求の高度化によって高くなる傾向にあります。設計目標値も期限と同様に厳守しなければなりません。要求仕様の目標値に近づけ、目標値を超えるためには、CAEの高度化が必要になります。目標値アップに貢献する解析技術を開発しなければなりません。この仕事は、解析専任者の独壇場です。彼らの解析や計算力学に対する知見を遺憾なく発揮することになります。
解析技術の開発は、設計の役に立つもの、設計プロセスへの展開を意識したものでなければなりません。ですから解析専任者は、製品、設計プロセス、設計の課題などを大まかに理解しておく必要があります。解析専任者の役割は、汎用(はんよう)ソフトウェアの機能を知ることではなく、計算の精度を上げることでもありません。設計者が必要とする解析を、設計者が納得する精度を担保した解析技術を提供することです。
期限と目標を達成するだけではなく、さらに期間を短縮し、かつ設計目標値を超えた設計ができれば、QCDをより高いレベルでクリアすることができます。
繰り返しになりますが、設計プロセスの各フェーズで、期間と目標値は明確に存在します。そのゴールを達成するためには、設計に必要な解析技術を開発し、設計者が使用できる環境を構築する必要があります。これが逆算のCAEです。
逆算のCAEを実践するためには、解析専任者の専門性の高い、幅広い知見が必要です。それに加えて、設計者の協力が不可欠です。「設計に必要なCAE」を知ることは、それほど簡単なことではありません。設計者はどんな課題がCAEで解決できるのか分からないからです。設計に必要なCAEを的確に洗い出すためには、解析専任者が設計者に歩み寄って、設計者と対話する必要があります。逆算のCAEの主な業務は、CAEによる設計の効率化と高度化なので、解析専任者が製品や設計プロセスを理解した方が、設計者がCAEを理解するよりも効率的です。
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