サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルを両立させるために必要なものここがやばいよ! 日系製造業の「資源循環」問題

製造業のカーボンニュートラル化に注目が集まる中、2024年2月22日にオンラインセミナー「ここがやばいよ! 日系製造業の『資源循環』問題〜サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルを両立させるために必要なもの〜」(富士通主催)が開催された。本稿では、慶應義塾大学の田中浩也氏、YouTuberのものづくり太郎氏、富士通の溝渕真名武氏によるパネルディスカッションの内容をお伝えする。

» 2024年03月19日 10時00分 公開
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 世界的に地球環境に対して持続可能性を高める活動が求められる中で、カーボンニュートラルと並んで大きく注目されているのが「資源循環」への取り組みだ。ただし、この取り組みは経済的な要素や脱炭素などとトレードオフの関係になりがちで、推進するのが非常に難しいとみられている。日本の製造業はどのようなことを考えて取り組むべきなのだろうか。

資源循環でも「データ連携」で立ち遅れている

photo 製造業YouTuberのものづくり太郎氏

 「資源循環」の課題として「データ連携の未整備」を挙げ、問題提起したのが製造業系YouTuberのものづくり太郎氏だ。資源循環のためには材料探索や調達、設計、製造などの各工程のデータ連携から製品として市場投入した後の回収や再利用まで、材料のライフサイクル全体のデータ管理が必要になる。しかし日本企業は「同じようなシステムを各企業や各部門が開発し、そこで得たデータを相互で運用できないというサイロ化が起きています」と、ものづくり太郎氏は警鐘を鳴らす。

 さらに、自動車業界全体でデータ交換の具体的なアプリケーションなどを展開する共同出資会社「Cofinity-X」や建設業界で普及が進むBIM(Building Information Modeling)などの例を紹介して「日本は自前主義で何でも自社で作ろうとしますが、欧米では競争領域と協調領域を明確に分けて定義し、協調領域については標準化と連携で進める考え方が定着しています。建設業界のBIMなど、データを個別で使うのではなく使い回す時代です」と、ものづくり太郎氏は訴える。

データ連携を支援するソリューションを用意する富士通

photo 富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 Sustainable Trans事業部 マネージャーの溝渕真名武氏

 ものづくり太郎氏の問題提起を受け、資源循環におけるデータ連携について富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 Sustainable Trans事業部 マネージャーの溝渕真名武氏は、富士通の取り組みを紹介した。富士通は製造業としてサステナビリティートランスフォーメーションに取り組む一方、ITベンダーとして製造業のさまざまな環境への取り組みを支援している。

 製造業としては、サプライチェーンを巻き込んだ温室効果ガス(GHG)排出量のScope3削減への取り組みを紹介した。これらを見える化するために、World Business Council for Sustainable Development(WBCSD:持続可能な開発のための世界経済人会議)の社会実装プログラムとして「PACT Implementation Program」に参画。富士通のノートPCを対象とした実証試験を行い、サプライヤーを含めたサプライチェーン全体のGHG排出量を企業間のデータ連携で収集して算出することに成功した。「実証を通じて富士通の『Track&Trust』というソリューションがこのプログラムの試験に合格し、PACT準拠のソリューションに認定されています。企業の壁を越えたデータ連携が可能になっています」(溝渕氏)

資源循環に適した新素材開発に貢献するマテリアルズインフォマティクス

 ITベンダーとしての取り組み事例としては、資源循環を支援するための化学メーカー向けバリューストリームソリューションを紹介した。資源循環にはコストがかかるため、採算性を考えるとバリューチェーン全体を見直す必要がある。そのために必要な取り組みとして「データドリブンで実現するマスバランスの高度化」「ESG経営の実現に向けた経営プラットフォーム」「リサイクル原料割合を向上させる新素材開発」の3つをポイントとして挙げる。

 データドリブンについては、資源循環に関わるさまざまな要素を管理しつつ経営的価値の見極めを“科学的に”行う必要がある。こうした要素をデータ化して統合管理する仕組みとして、データドリブンでマスバランスを判断できる基盤作りの重要性を訴える。

 資源循環の取り組みは社会的意義なども関連するため、財務情報だけでなく非財務情報の価値なども統合して経営判断しなければならない。そこで、財務/非財務の情報を統合管理してシミュレーションなどもできる情報基盤「ESG Management Platform」の価値を紹介した。

photo 循環可能な化学品のバリューストリームの構築イメージ[クリックで拡大] 提供:富士通

 さらに重要になると考えられているのが新素材の開発だ。既存製品の材料を回収して循環させようとするとコストが高くなり過ぎる場合がある。そこで、そもそも資源循環がしやすい材料の探索が求められている。これを支援するソリューションとしてマテリアルズインフォマティクス(MI)などを組み込んだ素材探索サービス「Material Exploring Support Service」の用意を進めている。生成AIなどを通じて、テキストベースで質問を重ねるだけで最適な素材や条件などを示す「生成AIレコメンデーション」機能なども用意し、幅広く材料開発を支えるソリューションを展開している。

 溝渕氏は「富士通の材料開発支援の強みは、AIやデジタルアニーリングなどを含めたコンピューティングテクノロジーと製造業としてのモノづくりの知見、MI領域だけでなく設計から製造まで含めてEnd to Endで支援できる点です」と訴える。

photo Material Exploring Support Serviceの全体像[クリックで拡大] 提供:富士通

建築業界で進む資源循環 部材を資源として捉える「しげんバンク」

 建設業界でのさらに一歩進んだ資源循環の在り方として慶應義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也氏が説明したのが「しげんバンク」だ。

photo 慶應義塾大学 環境情報学部 教授 田中浩也氏

 田中氏は、使用済みプラスチック容器を粉砕した材料を使って3Dプリンタで東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の表彰台を制作する「みんなの表彰台プロジェクト」など、新しいモノづくりと資源循環についての活動をしている。その中で、鎌倉市を舞台に実現可能な資源循環を模索する「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創コンソーシアム」を設立し、参加する26企業/団体と共にさまざまなことに取り組んでいる。

 その一つが、建築物を「しげんバンク」として捉え直して建築資材の素材情報を共有し、分解して回収しやすくする新たな建設の在り方を検証するものだ。欧州におけるオランダのMadasterの取り組みを参考に、協力しながら進めているという。

 「建設業は製造業よりもBIMなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)が早く進展しているとみられています。そのデジタル技術を活用することで、建築資材の素材や分解性、CO2含有量などの情報を共有し、リサイクルの負荷や含まれている素材を明示できれば、建築資材を分解して再販売できる世界も広がります。日本では一戸建て住宅の価格は築20年ほどでゼロになるとされていますが、資材を再販売することでレアメタルなどが多く含まれていれば価値が高まることも考えられます」(田中氏)

 現在、コンパクトな建造物で実証しようとしている。各建築資材にQRコードを設置し、それを基に素材情報やサプライチェーン情報などを確認できる準備をしている。「建物を解体する際に、建築資材のリサイクルや再利用を、より少ない移動距離でできるようにします。将来的にはシミュレーション機能も組み込み、サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルを両立させるための移動ルートなどを検証することも考えています」(田中氏)

photo 素材情報の表示画面のイメージ[クリックで拡大] 提供:田中氏

資源循環を具体的に進めていくために何が必要か

 製造業が資源循環を実践するためには、まず何を考え、どう取り組むべきなのだろうか。パネルディスカッションで各登壇者がポイントとしたのは主に以下の2点だ。

  • 資源循環についての必要情報を取りまとめるデータ連携の必要性
  • 採算性を確保するビジネスモデルやバリューチェーンの構築

 溝渕氏は「資源循環には、企業内外の非常に幅広い要素が関わっています。協調領域と共創領域を明確に分け、協調領域については積極的に外部と協力することが求められます。それを判断するためにもデータドリブンが必要です。資源循環で採算を取るための新たなビジネスモデルの構築につながる要素の一つが新素材開発だと考えています」と語る。

 田中氏は「採算性を確保して資源循環をするためにはビジネスモデルを変える必要があると考えています。製品への価格転嫁やサブスクリプションサービスなどの売り方など、採算性のある仕組みを構築しなければなりません。それらを模索する意味でもデータドリブンで科学的根拠を持って検証することの重要性は高まるでしょう」と述べる。

 ものづくり太郎氏は「海外からの環境規制の要求を受けながら、日本は既に問題なく運用できる仕組みづくりを行っています。資源循環の仕組みづくりでも、勝負する相手は海外企業や大手プラットフォーマーなどです。その動向や自社の強み・弱みを把握して、競争領域や協調領域を見極める必要があります」と訴える。

 製造業にとって、資源循環は特に難しい領域の一つだ。しかし、バランスを見極めれば「経済性と資源循環の両立が可能な領域も意外に簡単に見つけられると考えています」(田中氏)。日本の製造業が資源循環に本格的に取り組んでビジネスチャンスにするためには、こうした領域を見つけ出すために何が必要かという視点でツールや体制を整備することが求められているのではないだろうか。

製造業の資源循環問題を取り上げた本イベントをオンデマンド配信中!

 今回記事で紹介した富士通主催のオンラインセミナー「ここがやばいよ! 日系製造業の『資源循環』問題〜サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルを両立させるために必要なもの〜」は現在オンデマンドで配信中です。慶應義塾大学の田中氏、ものづくり太郎氏、富士通 溝渕氏が、本記事では取り上げ切れなかったさまざまな話題について熱い議論を繰り広げておりますので、ぜひご覧ください。

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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月26日