「環境データを出せ」と言われても何を出せばいいの? ESG経営基盤が必要なワケカーボンニュートラルテクノロジーフェア特別企画

2023年11月27〜28日に開催されたオンラインセミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023冬」(MONOist編集部主催)に、富士通 グローバルビジネスソリューションBG ソーシャルソリューション事業本部 シニアディレクターの長島久美子氏が登壇。「製造業が“勝ち続ける”ために必要なESG経営とは」をテーマに、サステナビリティーを実現する企業経営の在り方について、富士通自身や顧客企業の事例などを中心に紹介した。

» 2024年01月09日 10時00分 公開
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サステナビリティー対応が避けられないものなら取り込むしかない

photo 富士通 グローバルビジネスソリューションBG ソーシャルソリューション事業本部 シニアディレクターの長島久美子氏

 脱炭素やサーキュラーエコノミーの実現など、製造業に対する環境関連の要求は高まる一方だ。製造業はどのような対応を進めるべきなのだろうか――。長島氏は現在の状況として、あらゆる産業に対してESG(環境、社会、企業統治)経営の必要性が高まっていることを強調する。「欧州におけるさまざまな環境対応の動きや日本における法規制の動きなど、グローバルの共通課題として気候変動や環境問題への対策を企業が取り組まざるを得ない状況になりつつあります」と長島氏は警鐘を鳴らす。

 金融安定理事会(FSB)が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)では、投資家が企業の気候関連リスクと機会を適切に評価するための情報開示を求めている。2017年に発表した「TCFD提言」では、企業が気候変動ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標などを示すことを訴えた。日本でも1344の企業/機関(2023年6月時点)が賛同を表明しており、環境関連情報を積極的に開示する方向性を示した。

 CSRD(欧州企業サステナビリティー報告指令)やWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の目標や提言など、世界中でさまざまな指針や規制なども急速に整備されている。こうした外部環境の変化が避けられないのであれば、逆に積極的に取り込んでいくべきだと長島氏は主張する。「サステナビリティーを求める外部の圧力はもはや避けられなくなっています。逆転の発想で、積極的にこうした動きを企業活動に取り組むことで競争優位を獲得するチャンスが来ているとも捉えられます。どうせ避けられないのであれば、いち早く取り組むことで競争優位を獲得する勝ちのシナリオを描くことが重要です」と訴える。

サステナビリティーを経営に取り込む富士通の取り組み

 サステナビリティーに関する外部の要求は富士通にも押し寄せていため、積極的に企業経営に取り込んでいるという。まず、パーパス(企業経営の目的)として「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」を掲げ、これを基に財務/非財務両面で経営目標を設定。これらを推進する中で重要なテーマ(グローバルレスポンシブルビジネス)の一つとして「環境」を位置付け、経営の重要な指標として社員一人一人の活動に落とし込んでいる。

 カーボンニュートラル化の取り組みの一つとして注目されているものにGHG(温室効果ガス)プロトコルにおけるScope3がある。企業の事業活動において直接排出(Scope1)や電力および熱などの間接排出(Scope2)以外で排出されるGHG排出量を示すもので、低減するためには原材料の調達やそれに伴う物流、廃棄などの製品ライフサイクル全般に関わる事業活動全てのGHG排出量情報の収集が必要になる。富士通はこのScope3の把握に努め、これを低減する取り組みを進めている。

photo サプライチェーンを巻き込んだScope3カテゴリー1への取り組み[クリックで拡大] 提供:富士通

 富士通一社でこうした取り組みを実現するのは難しいため、グローバルスタンダードを構築するためにさまざまな団体などに積極的に参画し、標準の構築といったルール作りをしている。

 気候変動に関しては、電子情報技術産業協会(JEITA)のGreen×Digitalコンソーシアムの見える化ワーキンググループ副主査を務めている他、WBCSD PACT(Partnership for Carbon Transparency)プログラムに参画してサプライチェーン流通についてカーボンフットプリントの算出方法やデータ連携方法の国際標準の策定などに取り組んでいる。欧州のデジタルプロダクトパスポート(DPP)を推進するCIRPASS(Collaborative Initiative for a Standards-based Digital Product Passport for Stakeholder-Specific Sharing of Product Data for a Circular Economy)や自動車のサプライチェーンにおけるデータ連携を進めるCatena-Xなどにも参加しており、情報収集だけでなくさまざまな規格や業界ルールの策定に関わっている。

 特にWBCSD PACTプログラムにおいては、ルールメイキングに携わるだけでなく長瀬産業と共に実証をいち早く行っている。実証試験では、富士通製のノートPCを対象に上流サプライヤーをティア1〜3まで3層にわたってさかのぼり、製造に必要な部品の製品カーボンフットプリントデータを取得した。データ連携項目は、WBCSD PACTプログラムが定義する「Pathfinder Framework」に基づく製品カーボンフットプリントデータを採用している。「ルール策定の場に積極的に参加するだけでなく、そこで得た知見を実際に試して形にできている点が特徴だと考えています。実証ではPACTに準拠した富士通の『ESG経営プラットフォーム』を使い、3層のレイヤー間で円滑にCO2排出量のデータ交換と製品カーボンフットプリントを容易に算出できています」と長島氏は取り組みの成果を訴える。

photo PACT実証プログラムの概要[クリックで拡大] 提供:富士通

最適な施策を推薦する機能を持つ「ESG経営プラットフォーム」

 富士通は自社でのサステナビリティーのさまざまな取り組みを外部にも積極展開し、さまざまな企業のSX(サステナビリティートランスフォーメーション)を推進する方針だ。

 そのためのサービスの一つが、PACTの実証プログラムでも使用したESG経営プラットフォームだ。ESG経営プラットフォームは、企業価値を最大化するために財務/非財務の両面からファクトに基づいた最適なESG経営を実現する情報を統合する基盤だ。環境などへの問題は、財務/非財務のさまざまな要因が複雑に絡み合っているため、施策がどういう結果を及ぼすかをシミュレーションする機能を持つ。生成AIによって施策の候補を示すレコメンド機能など、経営層の意思決定をサポートするさまざまな機能もある。

 長島氏は「サステナビリティーなどESG関連の問題の一つは、社内外に膨大な情報があり、それを可視化するだけでも大変だということです。それを一元的にまとめ、さらに経営層の意思決定を支援する仕組みを組み込んでいることが特徴です。散在するデータを集めるためにはブロックチェーンなどの技術が必要です。分析結果についても判断を下しやすいようにレコメンドする機能などを実現するには生成AIなどの技術が不可欠です。こうした技術群を保有していることも富士通の強みです」と語る。

photo ESG経営プラットフォームの概要[クリックで拡大] 提供:富士通

 ESG経営プラットフォームを使うことでGHG削減のための投資についてコストシミュレーションで最適な判断を下せるようになったり、部品単位で調達コストやGHG排出量などの情報を組み合わせて調達部品の変更を判断したりできるようになる。国別排出量や売れ筋製品を分析してビジネス拡大とGHG削減の両立を考えた販売戦略や製造戦略を組むことも可能になる。「既に幾つかの企業で先行してプロジェクトを開始しています。もちろん富士通社内でも使っています」と長島氏は述べる。

 先行事例の一つが、IHIと共同で進めている「アンモニアCO2トレーサビリティープラットフォーム」だ。アンモニアを「つくる」「はこぶ/ためる」「つかう」の各段階でCO2排出量を算出、記録、可視化するものだ。新たな燃料として注目を集めるアンモニアの生産過程におけるCO2情報を明示することで、クリーンアンモニアの価値などを証明できるようになる。その他、帝人とのリサイクル素材の資源循環や環境価値化を評価する情報基盤構築、ベルギーのビール会社であるAB InBevのサプライチェーン情報管理基盤のパイロットプロジェクトなど、さまざまな取り組みを進めている。

photo IHIと富士通のアンモニアCO2トレーサビリティープラットフォーム[クリックで拡大] 提供:富士通

 長島氏は「ESG経営プラットフォームのポイントは、PACTの基準をいち早く盛り込んでそれを実効性のある形で実装できたことです。グローバルで信頼性があるサステナビリティー関連データを集め、最適な経営判断を下せるようになります。環境問題を含めてESG経営を推進することはビジネスの競争力強化に役立ち、企業価値を高めることにつながります。富士通はこうした取り組みをグローバルで支えていけます」と語っている。

 環境への取り組みが避けられなくなる中で、製造業がこうした動きを捉えて取り込んでいく必要があることは明らかだ。グローバルでの標準活動に参加して世界の動向をつかみ、社内外での実践を通じて実効力のあるサービスやソリューションを展開している富士通は、ESG経営を推進するための道しるべになってくれることだろう。対応に迷う製造業は一度相談してみてはいかがだろうか。

2024年1月23日にカーボンニュートラルに関する討論イベント開催!

 2024年1月23日にカーボンニュートラルに関する富士通主催のオンラインセミナー「ここがやばいよ! 日系製造業の脱炭素問題〜Scope3カーボンニュートラル化が求められる時代に何が必要か〜」を開催します。

 モノづくり系YouTuberのものづくり太郎氏、DXレポートの生みの親である経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長の和泉憲明氏、DX変革のスペシャリストである富士通 エグゼディレクターの瀧澤健氏を招き、製造業が脱炭素にどのように取り組むべきかを議論します。今回の富士通の取り組みもさらに詳しくご紹介しますので、ぜひご参加ください。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年1月26日