コロナ禍とECの普及によって発生した需要の急増と人材不足の板挟みによって厳しい状況にある物流業界。さらに今後は、脱炭素への対応も求められるようになる。富士通のオンラインイベント「Fujitsu ActivateNow 2021」では、サステナブルでレジリエントな物流の実現に向けたデジタル技術を活用した取り組みについて、富士通とDHL、Autofleetの3社が講演を行った。
コロナ禍の巣ごもり需要を受けたEC利用の拡大によってパッケージデリバリーが増加する一方で、物流業界は人材不足や再配達の増加などに悩まされており“物流クライシス”ともいえるような状況に直面している。
富士通は、多くのパートナーとともにデジタル技術を活用することで、この“物流クライシス”を解決し、さらにはサステナブルな社会を実現していこうとしている。2021年10〜11月にかけて開催されたオンライン形式のグローバルフラグシップイベント「Fujitsu ActivateNow 2021」では、物流業界における未来を示すべく、「サステナブルでレジリエントな物流によって加速するGreen DX」をテーマに、業界のキープレイヤーであるDHL、Autofleetとともに講演を行った。
まずは、ドイツに本拠を構える国際輸送物流会社のDHLで、SVP, Global Head of Innovation & Commercial Developmentのマティアス・ホイトガー氏が登壇。DHLが直面している物流のサステナビリティとレジリエンスに関する課題と、その解決のためにデジタル技術をどう活用しているのかについて語った。
地球温暖化は急速なペースで進んでおり、この30年で地表の80%で気温が上昇したといわれている。そして2021年7月は観測史上最も暑い月となった。
しかし、そのような状況でも物流業界には社会で必要とされる物資や生活必需品を確実に届ける重要な使命が課せられている。例えば、DHLではこれまでに10億本以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを世界中に届けてきたという。そうした中でサステナビリティという新たな課題が浮上しているのだ。
ホイトガー氏は「物流業界はよく収益性とエコロジーのバランスが必要だと言われますが、実は二者択一でもなければバランスが大事なのでもありません。サステナビリティは将来のビジネスのライセンスです。企業を維持し、長期的な増益を確保するためにも必要不可欠なのです。パンデミックの間もサステナビリティの重要性はさらに高まっています。持続可能な商慣行に対する消費者の意識と需要はますます高まっており、経営陣にとってサステナビリティは戦略上の至上命令となっています」と強調する。
もっとも、DHLにとって環境、社会、ガバナンスは特に目新しいテーマではない。サステナビリティへの取り組みのスタートは2008年にさかのぼり、DHLは物流業界において気候保護の目標を最初に設定したグローバル企業となった。その過程においてサステナビリティを正式に取り入れ、いち早くEV(電気自動車)の利用に踏み切り、CO2排出量削減の目標を当初の予定を前倒しで達成してきたのである。
さらに2021年にはサステナビリティロードマップを発表し、科学的知見と整合したCO2排出量削減の新たな目標を設定。「物流企業にとって当然の取り組みであるクリーンなオペレーションにも注力しており、2030年までにこの目標を達成するために70億ユーロを投資する予定です」(ホイトガー氏)。
また、DHLでは製品とビジネスモデルのポートフォリオを変えながら、よりサステナブルな業務の採用を進めている。
持続可能な燃料と低炭素技術の採用を通じたサービスの脱炭素化、効率を高めるソリューションを含めたグリーン最適化もその一環だ。例えば、倉庫内での照明の省エネ化や運行ルートの最適化などがこれに該当する。特に、ラストマイル配送における配送車両の電動化、サステナブルな包装、廃棄物管理などの循環型経済ソリューションも検討している。ホイトガー氏は「こうしたクリーンな業務の根底にあるのは透明性とカーボンレポートです。可視性の向上と正確なデータ収集により、より良い意思決定を行うことができます。デジタル化のエキスパートやイノベーターが多数所属する当社は、サステナビリティに大きな役割を果たしていけると自負しています」と述べる。
一方で、DHLは顧客志向のイノベーションを推進する中で、世界各地に4つのイノベーションセンターを建設し、顧客や取引先とともに物流の未来をリードしている。こうした取り組みからも事業のデジタル化によるメリットを感じとっているという。データ分析やAI(人工知能)活用が奏功し、サステナビリティの分野でも効果が表れているのだ。
例えば、グリーン最適化に注目すると、サプライチェーンのモデリングにはデジタルツインの技術が活用されている。イノベーションセンターから得た高品質のデータを基に、事業全体での分析を容易に行えるようにするものだ。「このデジタルツイン上でのAIのサポートにより、マネジャーはすぐに変更をシミュレーションし、炭素削減とエネルギー効率のための操作を最適化することができます。また、膨大なテストに費やしていた工数やコストを削減し、検証期間を短縮します。このようにサービスレベルや収益性で妥協しないことも重要なポイントです」(ホイトガー氏)。
ただし、DHLはあくまで物流企業であるため、こうしたイノベーションは常にテクノロジーパートナーの協力が不可欠だ。そうした中で生まれたのが富士通との提携であり、両社は今後も緊密に連携しながら、より効果的で収益性のあるサステナブルなビジネスモデルを開発していくとする。
続いて登壇したのは、富士通テクノロジーソリューションズ Principal Technical Architectのザビーシャ・ホジック氏である。ホジック氏は、DHLが直面しているような物流業界の課題について、富士通がその解決にどう貢献していくのかについて説明した。
先に挙げたホイトガー氏の講演にもあったように、物流業界はサステナビリティとレジリエンスの両面で課題を抱えている。イノベーションを通じて信頼できる社会とよりサステナブルな世界の構築を目指す富士通は、デジタル技術によって物流業務を合理化するグリーンDX(デジタルトランスフォーメーション)とラストワンマイル配送DXの実現を目指している。
ホジック氏は「グリーンDXによってカーボンフットプリントを削減し、ラストワンマイル配送DXによって輸送に安全性、セキュリティ、快適さをもたらします。そのために富士通が開発しているのが、コネクテッドカーや道路インフラ、倉庫から大量のデータを収集するモビリティデジタルツインなどの技術です。収集したデータはリアルタイムで処理、分析され、製品とサービスに価値をもたらします。この高度なソフトウェアのアルゴリズムによって現実世界をデジタルと融合し、富士通が提供するデジタルツインのプラットフォームがサプライチェーン全体で予測や最適化を実現します」と語る。
この一環として富士通は、コネクテッドカーのデータを保護し、サイバー攻撃を防ぐため、車両セキュリティオペレーションセンター「V-SOC」を開発した。高性能のソフトウェアを使ってセキュリティチームは、車両やサーバ、ネットワークで発生したインシデントを迅速に検出して対処する。
また、物流のレジリエンスを向上させるために開発された動的データ処理技術は、輸配送の遅延を引き起こす異常気象などの予測を可能とする。これにより予測されるさまざまな事象への対策を事前に策定したり、悪影響を軽減したりすることができる。併せて、配送のコストや定時性、CO2排出量など、最適な輸送手段を選択するための指標を提供する。
そしてデジタルツインは、ダウンタイムを減らしつつ物流の効率を向上する。渋滞や配送時間の変更といった不測の事態に対処する動的なルート案内や配車は、サステナブルでレジリエントな輸送で特に重要な要件となる。「これを実現したのがAutofleetとの協業です。これによって、動的な配車やルーティング技術の提供が可能になりました」(ホジック氏)という。また、今後にむけては物流業務の最適化やカーボンフットプリント削減に貢献すべく、高度なシミュレーションエンジンも提供していくとのことだ。
ホジック氏から紹介を受けて登壇したAutofleet Chief Executive Officerのコビー・アイゼンバーグ氏は、これからの同社の取り組みを紹介した。なお、富士通とAutofleetは、約1年間の協議を経て、本講演が行われる直前の2021年10月28日に資本業務提携を発表している。
Autofleetは車両資産(フリート)管理の分野に注力しており、物流やレンタカー、カーシェアリング、タクシーなどの企業が主な顧客となる。フリートはモビリティのバリューチェーンにおいて、現在だけでなく将来においても重要な役割を果たすと考えられ、Autofleetは3つのソリューションを提供している。
1つ目は「Vehicle as a Service」で、フリートの内部オペレーションを自動化、最適化する。アイゼンバーグ氏は「需要予測に基づいて車両配置の最適化やEVの充電の最適化、清掃など、フリート管理の最適化を含む包括的なソリューションとなっています。目標はフリートのダウンタイムを削減し、収益を最大化することです」と説明する。
2つ目は「Ride as a Service」で、物流および乗客を伴う配車関連のサービスを最適化するターンキーソリューションである。ユースケースは、物流からタクシー、ライドシェア、自動運転バスなど広範囲に及ぶ。
そして3つ目の「Simulator」は、さまざまな事業のプランニングに活用できる。「例えば、充電スタンドの配置やチャージャーの種類、ドライバーのシフトのプランニングなどに対応します。従来こうしたプランニングは決定までに何度もテストを繰り返すなど長い期間とコストを費やしてきましたが、シミュレータを使えばほんの数日で結果が得られます」(アイゼンバーグ氏)。
なお、これら3つのソリューションはAIベースの単一プラットフォーム上に構成されており、将来の需要予測、動的な価格設定、配車の最適化を含む一連の機能を備えている。これによりオペレータはAutofleetの制御センターの画面を見るだけで、各車両のリアルタイム追跡やアラートの受信、履歴レポートの参照など、フリートの管理に必要な全ての業務を一元的に行うことができる。
そして今後に向けてAutofleetが注力しているのが、フリートの電動化への対応である。物流業界におけるフリートの電動化はコンシューマーの世界よりもハイペースで進んでいる。そしてEVは、内燃エンジン車と比べて利用度が高いほど総保有コストが低くなるため、フリート管理の利便性がさらに生きてくる。
そうした中で、Autofleetのプラットフォームが活用される場面もますます広がっていくと予想されている。アイゼンバーグ氏は「EVの配車をはじめ、各車両の利用度合いを監視しながら、いつ、どのスタンドで充電するのが最適なのか、予算をどう配分するのかなど、さまざまなユースケースでプランニングをサポートします。また、新たな充電スタンドを設置するにあたって最適な場所を選定する際にも役立ちます」と語る。
ちなみにAutofleetは現在12カ国以上でビジネスを展開しており、既に3万台を超えるフリートを管理するとともに、7000万マイル以上の配車計画を処理してきたという。
最後に再び登壇したホジック氏は「富士通はDHLやAutofleetをはじめとする提携企業とともに、グリーンDXおよびラストワンマイル配送DXへの取り組みをさらに加速させていきます」と語り、環境に優しい未来と、より信頼できる社会「Trusted Society」を目指すという意向を示した。
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年2月13日