――HHKBと言えば静電容量スイッチを一躍有名にした立役者でもあるとも言えます。これは2003年から採用されたわけですけど、このスイッチの出会いというのもまた、あったわけですよね?
山口氏 HHKBを特徴づけるものとは何かというと、1番目に来るのがキー配列です。和田先生が考えられた配列は独特です。それが故にコンパクトな設計で、手を動かす範囲も少ない。本当にホームポジションから手を離さずに使えるというのが、2番目の特徴です。
3番目の特徴がキーの打ち心地です。初代のHHKBは静電容量スイッチではありませんでしたが、当時、HHKBのスイッチ部分を作っていた会社が製造を止めるというお話が出てきてしまって。どうしよう、どうしようと探し回る中で、国内の業務用で使われていたあるパートナー企業の静電容量スイッチを見つけて、それを採用したという流れです。
松本氏 いろんなところに話を持っていったのですが、私たちが作っているキーボードは非常に少量でしたので、国内大手のキーボードベンダーや台湾、中国のメーカーにスイッチ製造を依頼しようとしてもなかなか厳しいのが実態でした。でも、非常に高品質な業務用のキーボード、特に金融機関やコールセンターなどで使うようなキーボードを作っていたパートナー企業なら、私たちのような小ロットでもすごく高い品質できちっと作ってくれるっていうことが分かりました。
結果的にHHKBが静電容量スイッチを搭載して長らく愛される存在になったわけですが、狙ってできたわけではなく、結果的にいい出会いに恵まれて今がある、というのが正直なところですね。
――今回Studioという新シリーズが立ち上がったわけですが、そもそもこのStudioを作った狙いっていうのは、どこにあったんでしょうか。
山口氏 まず発想からお話ししますと、米国でVR(仮想現実)の市場が立ち上がってきていている時に、当社のエンジニアが実際に見に行って、今後こういうバーチャルなワークスタイルが流行るんじゃないかと考えました。より一層、自分の手の中で全てを動かしやすいコントローラーになるハードウェアを考えたい。HHKBのキー配列で全てをコントロールできる形を研ぎ澄まして考えていったところが、今のこのStudioの原点になったわけです。
では、実際に何を採用しなきゃいけないのかを考えました。VR空間の中でもマウス機能は誰もが使うので、マウス機能は外せません。次に、トラックパッドのような感じで画面をシュッシュッと切り替えていくことも多いと考えました。そういった切り替えは全部、ボリュームデバイスでできるほうが好ましいですから、これも付けます。
さらにVR空間ではヘッドマウントディスプレイを着けるので、あっちこっちに手を伸ばしていろんなデバイスに触るのではなく、自分のホームポジションから手を離さずに全てを動かせるところが大事になる。ここを突き詰めて考えた結果、ポイティングスティックとジェスチャーパッドを付けようという結論になりました。
――なるほど。プログラマー向けキーボードから、全然違ったユーザー層へ向かって作っていくということになるわけですかね。
山口氏 そうは言ってもVRの世界を作っていく人たちは、やはりプログラマーの方たちです。テキストコンソールだけで作っていくようなプログラマーだけではなく、VRの中でいろんな画面との整合性を作り上げていくプログラマーにも使ってもらいたいという意図で開発しました。
プログラマーの方たちもワークスタイルとか、開発環境が昔より発展してきているので、そこにもタッチできるようにしていきましょう、ということですね。
――Studioの特徴といえば、エッジ部分にコントローラーが入っているところが大きなポイントかと思います。これ、エッジ部分の表面じゃなくて、わざわざ横に付けたっていうのは、何か狙いがあるんですか。
山口氏 キーボードは手を置いて使用するので、表面にコントローラーがあるとどうしても触って誤作動してしまいます。そこで側面に搭載する形を考えました。側面も、キーボードの手前と横、後ろの3つがありますが、いろんな面で動かせるようにするのではなく、最小限の手の動きで操作できるようにするところを意識して、手前と横にこだわりました。
――これはスライドすることで、キーボード的にはキーコードが出力されるんですか。
山口氏 そうですね。デフォルトではいわゆる矢印キーのコマンドがアサインされています。あとはマウスのホイール操作になっています。あくまで基本設定なので、キーマップ変更ツールを使用して、お好きなキーを割り当てられます。
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