マーケターにも技術的知識が必須に マーケティング成功の鍵は「相互理解」間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(12)(1/2 ページ)

コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第12回のテーマは「マーケターが技術を理解することの重要性」だ。

» 2024年02月14日 10時30分 公開

技術者とマーケターの軋轢(あつれき)

技術者とマーケターの意見の対立は製品開発の障害となることも 出所:テクノポート

 技術者とマーケターの間には、しばしば摩擦が生じる。これは、お互いの目標と手法の違いに起因することが多い。技術者は製品について、機能性や品質に重点を置いて、長期的な視点で考えることが多い。一方でマーケターは、市場の要求やトレンドに敏感であり、売上やブランド認知度の向上を優先する傾向がある。この違いは製品開発やマーケティング戦略策定において、意見の対立にまで発展することがあり、企業活動の支障となることも少なくはない。

 その原因となっているのが「コミュニケーションのギャップ」であり、多くは「技術者とマーケターの知識差」と「仕事領域の交わり」に関係している。

 マーケターの仕事は大きく分けて2つある。1つは広告やプレスリリースなどで外部に情報を発信すること、そしてもう1つはユーザーのニーズをまとめて内部のコミュニケーションを活性化することである。

 外部に情報を発信する場合は、技術者に技術情報を聞かなければならない。しかし、マーケターは技術者ほど技術に精通しているわけではないため、技術者側が伝えたい内容を十分に理解するためには初歩的な内容から説明を受けなければならず、時間がかかってしまう。要点だけを説明したい技術者からは「そんなことも分からないのか?」と思われてしまい、双方の雰囲気が悪くなることも多い。

 また、内部のコミュニケーションを活性化する場合、マーケターは技術者に対して開発の方向性を提案する側になる。しかし技術者は「技術を知らない人から言われてもな!」という感情が先走って、提案を素直に受け入れられないこともある。

 このような「コミュニケーションのギャップ」が続くと徐々に関係が悪化し、外部への情報発信の質が低下したり、ユーザーを無視した開発にリソースを割いたりすることになる。より強固な製品と効果的な市場戦略を作るためには、両者が協力し、相互の視点を理解することが大切である。

 前回は技術者がマーケティング視点を持つ重要性について紹介した。今回はマーケターが技術を理解することの重要性について紹介する。

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技術を理解していないマーケターが多い理由

 まず技術者の間で広く疑問視されている「なぜマーケターは技術を理解していないのか?」について、その理由を紹介する。この問題は根深く、マーケター本人だけではなく、組織の問題としても見ていかなければならない。

(1)マーケティングに技術的知識は必要とされてこなかった

 まずは日本におけるマーケティングの歴史と現状を見ていきたい。日本では1900年代後半までマーケティング学が確立されておらず、製品の開発と販売は技術者と営業が中心となって行っていた。この状況に変化が訪れたのは、米国からマーケティングという新しい概念が導入されてからである。日本でマーケティングと言えば、主に広告やプロモーションなどの告知活動として捉えられてきた。そのため、営業活動の分野の1つとしての側面が強く、技術的な知識をマーケターに求める文化は育ってこなかった。

 また、マーケティングは特にローテクノロジー分野で力を発揮する。ローテクノロジー分野は参入しやすいため、競合社数も多く、競争が激しくなる傾向にある。そのような中で製品を売るためには、ブランディングなどのユーザーへの見せ方が重要とされてきた。一方で、技術力の高い日本は、ハイテクノロジー分野に強みがあったため、マーケティングに頼らなくても製品を売れる仕組みを作ることができていた。

 しかし、競合の技術力が向上し、技術が標準化されたことで、ハイテクノロジー分野でも競争が激化し、本格的なマーケティングの必要性が高まってきた。広告活動に重点を置いていた従来のマーケターにも、技術的知識が求められるようになったのである。

(2)不十分な企業の教育システム

 日本企業のマーケターへの教育では、マーケティング理論を教えることが優先されている。教育内容にはターゲット市場の特定、戦略の策定、具体的な戦術の適用が含まれ、その中ではキャッチコピーの作成やデザインも重要な要素として扱われている。

 一般消費者向け市場では、技術的知識よりもキャッチコピーとデザインが強調される傾向にある。技術的知識の必要性が過小評価され、マーケターへの技術面に関する教育やトレーニングの提供は限定的だった。結果として、マーケターが技術を習得する機会は少なく、こうした環境が長期間続いている。

(3)文系出身者が多い

 日本のマーケティング業界は長らく、広告ベースのアプローチが主流であり、企業は文系出身者を採用し、配属してきた。そのため、マーケティング部門には文系出身者が多く、理系出身者は比較的少ない。

 技術を理解するためには基礎知識が必要になる。理系出身者が高校や大学で学んできた基礎知識を、文系出身者はほとんど持っていない。そのため、文系マーケターと技術者の間で軋轢が発生する可能性が高まってしまう。

 これは文系出身者が不要であると言いたいわけではなく、文系と理系のバランスの問題である。広告やキャッチコピーの品質に偏りが生じないような人材採用、配置が重要になるだろう。

(4)知るべき技術の範囲が広すぎる

 技術者が特定分野に特化し、専門性を追求するのに対し、マーケターは1つの分野を深掘りするのではなく、全体を知らなければならない。例えば、医療技術とカメラ技術のように異なる分野がある場合、技術者は一方を追求すればよいが、マーケターは両方の分野についての知識を持っていなければならない。

 このように、マーケターは多岐にわたる技術領域の基本を理解し、市場への影響や顧客への価値提供の方法を検討していく必要がある。

 つまり、技術者とマーケターでは技術に対する視点が違うのである。技術者は「技術の作り方」に、マーケターは「技術の使い方」に焦点を当るため、ここにギャップが生まれる。しかし、こうしたギャップは相互理解により解決できる。

 結局のところ、マーケターが知るべき技術の領域は広すぎて、全てを網羅し、かつ技術者と同等レベルの技術的知識を持つことは難しい。そのため、両者のコミュニケーションが重要になってくる。

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