仮想統合データベースがプロセス系製造に与えるインパクト製造業DXプロセス別解説(6)(1/2 ページ)

製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第6回は、実際にモノづくりを行う「生産」の「プロセス系製造」を取り上げる。

» 2023年12月27日 08時00分 公開

 前回は「生産準備」をテーマに情報とモノの接点という極めて難しい業務に対し、デジタル技術の活用を駆使したモノづくりイノベーションをどのように進めていくべきか、という課題について論じた。今回は、実際にモノづくりを行う「生産」のうち「プロセス系製造」の領域において、仮想統合データベースがどのような変革をもたらすかについて紹介する。

図1 図1 本連載で製造業DXに向けたアプローチを解説する10のプロセス。今回のテーマは赤色で示した「生産①プロセス」がテーマとなる[クリックで拡大]

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プロセス系とディスクリート系

 「製造業」には多くの業種があるが、大きく「プロセス系」と「ディスクリート系」の2つに分類される。「プロセス系」は、液体、ガス、粉体など形が一定ではない材料を原料に用い、反応や蒸留およびろ過といった工程を用いて製品を連続あるいはバッチプロセスで製造する。具体的には、化学製品、石油、金属、紙/パルプ、薬品、ガラス/セメント、鉄鋼などを手掛ける企業が、「プロセス系」というカテゴリーに含まれる。一方、さまざまな部品を組み合わせる工程から製品を製造する業種は「ディスクリート系」と定義されている。自動車や電子機器などが、このカテゴリーの主な業種になる。

 本稿では「プロセス系製造」をテーマに据え、この業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を巡る現状の課題と解決アプローチを記す。

プロセス系製造領域における現状課題

 プロセス系製造の領域において、工場の規模に関わらず多くの部署が協力しながら日々の業務を遂行している。なかでも、プロセス系製造のプラントを運転する上での主軸部署は、プロセス操業を担当する「製造部」、プロセスに設置されている装置や機器を管理する「設備管理部(工務部)」および製造プロセスの不具合対策や生産性向上について技術的なサポートを担う「技術部」の3部門であり、それらが主体となって日々安定的にプラントを運転している。

 近年、ベテラン社員の勇退による深刻な人材不足が叫ばれているが、主軸部署の努力もあって生産量を極力落とさずにオペレーションを実施し、ギリギリのところで保安事故を免れているという話をよく耳にする。大多数の日系企業が、設備の老朽化による応急対策や設備の点検周期および運転オペレーションをベテラン技術者の「勘、コツ、経験」に任せ、日々業務を遂行している。

 近い将来、ベテラン技術者の勇退による一層の人員不足から重大な保安事故が頻発し、生産量が極端に落ちてしまうという課題が指摘されている。加えて、経営層の多くは、製造業の労働生産性が世界各国と比べると2000年の1位から2010年に9位、2020年では18位へと年々下降していることを懸念している(図2)。こうした実態から、日本の製造業の行く末に脅威を感じ、競争力強化を重点施策として掲げる日系企業が急増している。

図2 図2 日本の製造業における労働生産性[クリックで拡大] 出所:総務省「労働力調査」および「人口推計」、国連「世界人口推計」、日本生産性本部「労働生産性の国際比較」(2020)よりアクセンチュア作成

 では、重大保安事故の増加、生産量の低下、労働生産性の下降を引き起こした原因はどこにあるのだろうか。筆者は「業務のサイロ化/個別最適化」「業務の属人化」「テクノロジー未活用」「データ未活用」が主要因であると想定する。具体的な例を挙げると、日本のプロセス系製造領域では、いまだ昭和に確立された業務フローをベースとしてシステムの導入を検討するため、個別最適に気が付かず、さらなる業務のサイロ化を引き起こしている。すなわち、システムごとに蓄積されたデータを人海戦術でクレンジング、ひも付けを行うため、属人的で定性的な業務に陥っているのだ。

 一方、海外の製造業は、令和に開発されたシステムの機能を最大限生かすために、システムの標準機能に合わせて業務を標準化している。業務を通じて得られたデータをシステムに蓄積させ、データを活用した定量的な業務を遂行している。そのため、従業員の入れ替わりにも迅速に対応でき、労働生産性を落とさずに効率的な業務推進が可能なのだ。

 日本のプロセス系製造領域の喫緊の課題は、定性的な業務からデジタルを活用した定量的な業務への変革が他国に比べて圧倒的に遅れ、属人的な業務から脱却できていない点にある。この理由として、会社の10年先の将来を見据えたDX構想を描かず、経営者と従業員の認識に食い違いが生じたまま変革を推進していることが大きな要因と考える。

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