仮想統合データベースがプロセス系製造に与えるインパクト製造業DXプロセス別解説(6)(2/2 ページ)

» 2023年12月27日 08時00分 公開
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課題に対する解決へのアプローチ

 課題へのアプローチの第一歩として、工場のキーパーソンを集めDX構想を実施することを提言したい。その際、(1)課題抽出、(2)会社の将来を見据えた10年先のありたい姿の定義、(3)改革テーマの洗い出しを行う。(1)〜(3)で得られた結果から改革に関するロードマップを作成した後、DX構想で得られた結果を経営者にも共有し、会社一丸となって変革に取り組むことが重要だ。

 昨今、改革の取り組みとして最上位に挙がるテーマは、「属人的な業務からの脱却およびデジタルを活用した定量的な業務への変革」だ。現状、データの蓄積、収集、ひも付け、見える化、というデータの準備作業に従業員の膨大な時間が費やされているため、プロセスの安全性や生産性の向上に関する知見を得るための解析に時間を費やせない状態である。データの準備作業に費やす時間を大幅に減らし、解析に時間を費やせるような環境を準備することが、属人的な業務からの脱却の近道である(図3)。

図3 図3 課題に対する仮説アプローチ[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 そのためには、「さまざまなシステムやデータを仮想的に統合」させ、従業員にはあたかもOne Systemとして使えるような「仕組み作り」を提案したい(図4)。このような「仮想統合データベース」を構築することで、データの準備作業に費やしていた時間を解析業務へとシフトし、属人的な「勘、コツ、経験」に基づく定性的な業務から、「勘、コツ、経験」にデータからの示唆を組み込んだ定量的業務へと変革することができる。

図4 図4 仮想統合データベースのイメージ[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 仮想統合データベースに組み込まれる生産プロセスにおけるデータ基盤プラットフォームの心臓部について解説を加えたい(図5)。プロセス系製造では、「設備の図面」や「保全データ」および「運転データ」などの各種データを参照しながら日常業務を遂行する。各種データを格納する設備図書管理システム(EDMS)、設備保全管理システム(EAM)、プラント情報管理システム(PIMS)という3つのシステムを有機的に連携させ、マスターデータを蓄積するデータ基盤を構築することが肝要だ。

図5 図5 プロセス系製造におけるデータ基盤プラットフォームの心臓部[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 加えて、これらシステムの標準的な機能に業務を合わせることで、無駄な業務を排除したシンプルな業務フローを定義することも必要だ。その結果、プロセス系製造領域に関係する「業務の標準化」を達成し、部署間連携業務を円滑にする。3つのシステムを軸に業務上足りていない機能については、サブシステムとして「仮想統合データベース」に組み込むことで、データ活用業務を促進させる。データを基に部署間で連携しながら解析を実施すれば、プロセスの安全性向上や工場操業/設備保全の高度化および生産性向上に寄与できると確信する。

 定性的な業務から定量的な業務への変革ができた後、(1)従業員の働き方改革(2)バーチャルワンファクトリー(工場間の連携強化)の推進(3)サプライチェーンの最適化(4)スマート保安の向上(5)カーボンニュートラル/サステナビリティー推進/サーキュラーエコノミーの実践など、(1)〜(5)のプロセス系製造業全体の課題について、データを活用しながら会社の将来を見据えた上で検討を実施することが可能になる。

 DX構想フェーズで確定した、ロードマップ「いつまでに、どこまでやる」を定義し、会社の経営者および全社員で認識を統一したうえで変革の取り組みを遂行することが、プロセス系製造の変革を成功に導く上で必要不可欠である。



 次回は、冒頭で説明したもう1つの製造業の領域である「ディスクリート系製造」に焦点を当てたDXについて紹介する。

筆者プロフィール

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國下 敦史(くにした あつし) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 アソシエイト・ディレクター

グリーンサステイナブルケミストリーに関する研究(米国大学)、日系総合化学メーカーでプロセスの最適化/技術的検討、設備保全などの製造業務を担当。アクセンチュアでは、デジタル技術を活用したソリューション立案/業務プロセス設計など、多数のプロジェクトを推進。特に、エンジニアリング領域からO&M領域まで幅広くコンサルティング案件を担当し、製造業のDXを支援。理学博士(Ph.D.)

インダストリーX|アクセンチュア(accenture.com)


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