ispaceが民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション2で用いる新開発の小型月面探査車の最終デザインを公開。ミッション1で得た経験とデータを基にミッション2の月着陸船の開発プロセスを改善するとともに、再起の意味を込めてランダーを「RESILIENCE」と名付けた。
ispaceは2023年11月16日、東京都内で会見を開き、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション2で用いる新開発の小型月面探査車(マイクロローバー)の最終デザインを公開した。併せて、ミッション1で得た経験とデータを基にミッション2の月着陸船(ランダー)の開発プロセスを改善するとともに、再起の意味を込めてランダーを「RESILIENCE(レジリエンス)」と名付けた。ミッション2は、最速で2024年第4四半期(10〜12月)にSpaceXの「Falcon 9」で打ち上げを行うことも決まり、ランダーの月面着陸成功後にはマイクロローバーによる月面探査や月のレゴリス採取などを行う予定である。
同社 代表取締役CEO&Founderの袴田武史氏は「ミッション1は月面着陸には至らなかったものの、10個のマイルストーンのうち8個まで達成したことはミッション2、ミッション3などの成熟度の向上に貢献している。ispaceのビジョンである宇宙での生活圏の実現にはまだまだ多くのステップがあるが、われわれは恐れず、諦めず、次のミッションを実施し、継続的に月へのアクセスを世の中に提供し続けていく」と語る。
ミッション2の月面探査に用いるマイクロローバーは欧州子会社のispace Europeが開発を進めている。外形寸法は、全長54×幅31.5×高さ26cmで、重量は5kg。ランダーの上部にあるペイロードベイに格納され、月面着陸後には展開機構を用いて月面への着地と走行のための展開を行う計画である。軽量かつロケットの打ち上げなどの振動に耐える頑丈さを実現するため躯体にはCFRP(炭素繊維複合材料)を採用している。
公開した機体は、太陽光発電パネルとランダーとの通信を行うためのアンテナを展開した状態になっているが、ランダーのペイロードベイに格納している間は太陽光発電パネルを天面に、アンテナを側面に収納している。月面着陸時にバネじがけで太陽光発電パネルとアンテナを展開する仕組みだ。
マイクロローバーの前方にはHDカメラが搭載されており月面上での撮影が可能である。また、月の特殊なレゴリス環境の上でも安定した走行ができるように車輪の形状を工夫している。管制室からのコマンドやマイクロローバーからのデータの送受信はランダーを経由して行う。
新開発マイクロローバーの最大の特徴は機体前方に搭載したスコップだろう。HAKUTO-Rの新たなコーポレートパートナー企業となったスウェーデンのマイニング機械大手エピロック(Epiroc)が開発した。このスコップを使用して月のレゴリスを採取し、ローバーに搭載したカメラで採取物の撮影を行う計画である。
また、採取したレゴリスについては、ispace Europeが2020年12月にNASA(米国航空宇宙局)との間で締結した月資源商取引プログラムに基づき、その所有権をNASAに譲渡することになる。なお、ミッション2では地球への帰還は予定していないため、今回のレゴリス所有権の譲渡は今後の月資源の取り扱いに関する実証実験の意味合いが強い。
なお、マイクロローバーの開発は、ルクセンブルク宇宙機関が管理しESA(欧州宇宙機関)が実施する「LuxIMPULSEプログラム」の一環として、ルクセンブルク宇宙機関との共同資金で行っている。ispace Europeは現在、マイクロローバーのエンジニアリングモデルを開発しており、今後は環境試験の完了後にフライトモデルを開発し、2024年の夏頃に日本でランダーへの搭載を行う予定である。
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