今回のシリーズで作成するのは「ワイン販売用のECサイト」です。ソフトウェア開発エンジニアの中には「ECサイトを作ればいいのだから、顧客の業務知識など知ったことではない」と考える人もいます。その気持ちはよく分かるのですが、1ページ目の「証券会社のアプリケーションの開発」でも書いたように、顧客業務の最低限の知識は必須です。
筆者は過去、顧客の業務を理解していなかったことで多くの問題に遭遇しました。開発エンジニアの優先順位は、最上位が「ECサイトの構築技術」で、その次が「顧客の業務知識」です※3)。
※3)今回のシリーズは、「ECサイトの構築」が目的なので、ワインについての深い知識は必要ありません(筆者が必要に応じて、ワインの知識を解説しながら、システムの要求仕様や設計を進めます)。ただし、実業務でソフトウェアを開発する場合、「ソフトウェアは作っているものの、顧客がどのように使っているか分からない」では、顧客が求めるシステムは構築できません。自分が知らない業界であっても、貪欲に知識を吸収する姿勢があれば、「全方位対応のエンジニア」となり、非常に重宝されます。
ワインを深く学ぼうとすると数十冊の書籍になってしまいますので、最低限知っておくべき知識を5つにまとめました。
ワインは、ブドウを原料としたお酒です(ビールは麦が原料)。よって、未成年は購入/飲酒はできません。
ワインの種類は、大きく分けて3種類(3つの色)です。
黒ブドウを原料とする赤ワイン、白ブドウを原料とする白ワイン、薄い赤色のロゼワインという3種類が存在します。
上記の3種類に付随して「発泡あり、発泡なし」があります。発泡という言葉が聞きなれなければ、炭酸入りと考えてください。よく、スパークリングと聞くのが「発泡あり」のワインで、飲み味がすっきりします。
ワインの色と発泡を組み合わせると、赤ワインの発泡/非発泡、白ワインの発泡/非発泡、ロゼワインの発泡/非発泡の6種類になります。
ワインというとブルジョア層が飲むように思われますが、価格はピンキリです。スーパーに行くと、1本500円程度から1万円になるものまで幅広くあります。高級なものとなると、1本10万円以上するものも少なくありません。
ワインを作るブドウの収穫年をビンテージと呼んでいます。例えば、2020年に収穫したブドウで作ったワインは、2020年ビンテージと呼びます。高級ワインは、一般的に時間がたつと熟成して、品質が上がります。愛好家は、この年を購入の判断材料にします。例えば、「1990年はブドウが豊作だったので、上質のワインができたに違いない」と考えて購入します。
今回は、作成するワイン販売用のECサイトのイメージを深めるため、ECサイトとワインの概略を説明しました。世の中にはさまざまなソフトウェア製品があり、自分がよく知っている分野のソフトウェア開発を担当することはまれでしょう。ソフトウェア開発エンジニアを目指すなら、今回のように、ECサイトの構築技術に加えて、ワインに関しても一定程度知っている必要があります。
筆者が考えるエンジニアの完成形は、ソフト開発力、マネジメント力などのエンジニアリングスキルに加えて、顧客業務を考えた上で最適なソフトウェアを提案できる技術者と考えています。ぜひ、皆さんには、いろいろな業務でそのようなエンジニアを目指していただければと思います。
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東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士)
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