アサヒビールは2023年10月、R&D部門を主な対象として、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を活用した社内情報検索システムのPoCを開始した。社内情報検索システム導入の理由や、R&Dプロセスにおける生成AI活用の期待感を同社担当者に聞いた。
アサヒビールは2023年10月、R&D(研究開発)部門を主な対象として、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を活用した社内情報検索システムのPoC(概念実証)を開始した。このシステムには、社内の技術文書などの検索結果と共に、生成AI(人工知能)が文書の内容を要約して提示する機能が実装されている。
新規性のある、高付加価値な製品をより早く市場投入するためには、最上流にあるR&D業務をさらに効率化する必要性がある。生成AIを使うことで膨大な過去データから目当ての情報を素早く見つける仕組みを作り、本質的な研究開発に費やす時間を増やすことを目指した。
アサヒビール マーケティング本部 イノベーション戦略部 副課長の木添博仁氏は「これまでの印象だと、ITは非定型業務を多く含むR&Dとあまり相性が良くないイメージだった。しかし、生成AIをうまく使えば、R&Dの中でもよりクリエイティブな活動に集中しやすくなるのではと期待している」と語る。社内情報検索システム導入の理由や、R&Dプロセスにおける生成AI活用の期待感を聞いた。
社内情報検索システムは丹青社のナレッジマネジメントツール「saguroot」にAzure OpenAI Serviceを組み合わせる形で実現した。Azure OpenAI ServiceはOpenAIが提供する大規模言語モデル(LLM)をマイクロソフトのクラウドサービス「Azure」を通じてセキュアに利用できるようにしたサービスだ。
sagurootの使用方法はシンプルだ。Web検索エンジンと同様、検索ボックスにキーワードを入力して目当てのファイルを検索する。「Azure Cognitive Search」や「Azure Cosmos DB」の機能を組み合わせることで、PDFやPowerPoint、Wordなどのファイルや画像を検索できるようになっている。
検索はファイルに割り当てたタグ情報を用いて行うことも可能だ。現時点では検索対象となるデータを手動で格納しているが、将来的には「マイクロソフトのデータ共有ツール『SharePoint』やクラウドストレージ『BOX』などに自動でデータを集約し、定期的に自動更新する仕組みを作りたい」(木添氏)としている。
検索結果には資料内容を100文字程度でまとめた要約文が添付される。生成AIが生かされているのはこの機能だ。技術資料は探すのも読むのも時間がかかり、しかも一度の検索で3個や4個、多いときは10個も目を通さなければならない。読み始める前に、資料内容を100文字程度で大まかに知ることができれば、目的の文書かどうかを素早く判断でき大幅な時間短縮につながる。木添氏によると、「こうした技術文章の要約機能は、まだ他のナレッジマネジメントツールでは実装例が少ない」という。このため今回、sagurootで試験的に機能を開発して搭載した。
ちなみに、生成AIによる検索の利便性を高めるために、マイクロソフトの「Bing Chat」のような対話型の検索方式も導入できないか検討したが、開発工数などを鑑みて今回は実装を見送ったようだ。
格納する技術文書データは年次の技術報告書の他、定例技術報告会、技術展示会のレポート資料などだ。これに加えて、「研究所での勉強会の資料や商品企画書、実験データなども見られるようにする」(木添氏)としている。ただ今後、格納するデータの種類によって、閲覧可能な部門に一部制限をかける可能性はある。部門や企業の枠をまたいでデータ共有を行う際の、閲覧権限などのセキュリティ設定などは今後の要検討事項だ。
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