北米市場での電動車の充電に関して、また動きがありました。トヨタ自動車が、2025年からEVの充電に北米充電規格を採用することでテスラと合意しました。
週末です。1週間お疲れさまでした。北米市場での電動車の充電に関して、また動きがありました。トヨタ自動車が、2025年からEV(電気自動車)の充電に北米充電規格(North American Charging Standard、NACS)を採用することでテスラと合意しました。
2025年からケンタッキーの工場で生産する3列SUVタイプのEVを含む、一部のトヨタブランドとレクサスブランドのEVにNACS対応の充電ポートを搭載します。北米で普及してきたCCS(Combined Charging System、コンボ)規格の充電ポートが付いた車両のユーザーには、NACS充電が利用できるアダプターを2025年以降に提供する予定だとしています。
NACSとCCSの両方を使えるようになればEVユーザーの利便性が向上する、という狙いで、北米でEVを展開する自動車メーカー各社がNACSの採用を表明しています。CCSの充電器しか使えなかったEVユーザーにとっては、1万2000カ所以上のテスラのスーパーチャージャーが充電の選択肢として一気に加わります。
自動車メーカー各社はテスラに充電器の設置を任せるばかりではありません。ホンダとBMW、GM(General Motors)、ヒョンデ、キア、メルセデス・ベンツ、ステランティスは北米で急速充電器を整備する合弁会社を設立し、米国とカナダで少なくとも3万基の充電器を設置していく方針です。
NACS採用が広がることで充電の選択肢が増えるというよりは、不足を補うニュアンスの方が強いかもしれません。2023年7月に掲載した和田憲一郎氏によるCHAdeMO協議会へのインタビュー記事では、北米に設置されているCCSの充電器はメンテナンスが行き届いておらず、故障しているものも多かったと言及されています。NACS採用は「壊れて使えない充電器が多い中で代わりに別の規格の充電器も使えるようにする」という状況にも見えますね。
EVを「走る蓄電池」とみなし、住宅設備や社会インフラの一部としてどう活用するか、どのように電力を効率的に使うかを議論するのは、エンジン車にはなかった観点ですよね。家とEVをつなぐV2H(Vehicle to Home)や、電力網とEVをつなぐV2G(Vehicle to Grid)などのV2Xも規格なしには語れません。
例えばCHAdeMOはV2Hに対応できるよう設計された規格なので、建物側の設備をそろえればEVの駆動用バッテリーの電力を家でも使うことができます。車両側は先に準備ができていましたが、建物側の設備も導入しやすさや停電時の実用性などを見据えて進化しています。
その例が日産自動車と日立ビルシステムの取り組みです。両社はマンション向けのエレベーターや自動給水ユニットをEVの駆動用バッテリーで動かす実証実験を重ね、建物側に必要な設備を製品化し、販売しています。EVの駆動用バッテリーでエレベーターや自動給水ユニットが動くというのはV2Xのコンセプトとしてはど真ん中なところですよね。ただ、本当に動かせるのか、制御をどう変えるか、どのくらい動かし続けることができるのかを具体的に検証して使える設備として世に出すのは、V2Xをリアルなものにする上で大切な取り組みではないでしょうか。
他の規格はV2Xに対してどう取り組んでいるのでしょうか。先述したCHAdeMO協議会へのインタビュー記事では、NACSにV2X対応の動きはなく、CCSは実証実験を実施しているもののV2Xに必要な設備が実用化される様子はない、と紹介しています。
V2XなしにEVを使うことが無意味だとは思いません。使用中の車両から出るCO2や排ガスをなくすという環境への貢献がありますし、好きなクルマを選び、運転を楽しめるのであればパワートレインに関係なく有意義なことです。もし、V2Xも含めたEVシフトが必要だとNACSやCCSも考えるのであれば、今後のV2Xへの対応に注目したいですね。
「走る蓄電池をどう使うか」という問いに対する答えで、お国柄や地域の習慣が色濃く表れると面白いですよね。例えば日本は地震や台風に備えるのがV2Xの理由の1つですが、地震や台風が多くない国ではどうでしょうか。住宅事情、街並み、建物の設備、屋外での趣味などが違えば、走る蓄電池の使い方のアイデアも変わってくるのではないでしょうか。そうなるとV2Xが面白い分野になりそうです。
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