出光は2001年から、トヨタは2006年から「全固体電池」を研究してきた自動車業界の1週間を振り返る(1/2 ページ)

日頃、新聞やテレビ、インターネットなどを見ていて、「ニュースになるということは新しいものだ、今始まったことだ」と思ったことはありませんか? 放送時間や紙面の文字数に限りがある場合、これまでの経緯が省略されるため、新しくて今まさに始まったかのように見えてしまいます。その例の1つが電池の話題かもしれません。

» 2023年10月15日 10時30分 公開
[齊藤由希MONOist]

 1週間お疲れさまでした。パレスチナ問題に関する物々しい報道が連日流れてきますね。国際情勢について不勉強なので、いつから、なぜ、どのような問題が続いているのかをおさらいしながらニュースを見ています。文字での解説は落ち着いて読めるのですが、映像で見てしまうと身につまされます。

 MONOistは製造業向けのメディアですが、「イスラエル」でサイト内検索をすると、少なくない本数の記事がヒットしました。スタートアップ企業に関連する記事が目立ち、協業している日系企業も複数あります。イスラエルの企業と縁があった、または今もかかわりがあるという人にとっては、「身につまされる」以上の心境かと思います。製造業の裾野の広さを改めて実感しました。

メディアが盛り上がっているから新しいとは限らない

 日頃、新聞やテレビ、インターネットなどを見ていて、「ニュースになるということは新しいものだ、今始まったことだ」と思ったことはありませんか? 放送時間や紙面の文字数に限りがある場合、これまでの経緯が省略されるため、新しくて今まさに始まったかのように見えてしまいます。その例の1つが電池の話題かもしれません。

 自動車に関しては、「全固体電池」「バイポーラ型電池」が最近急に話題になり、EV(電気自動車)を変えるブレークスルーとなる、画期的な電池だと取り上げられています。しかし、電池に詳しい人は以前から研究されてきた領域だとご存じですよね。

 今週会見を開いた出光興産とトヨタ自動車も、要素技術の研究開発の歴史は短くありません。出光興産は2001年から、トヨタ自動車は2006年から取り組んでおり、昨今のEVシフトのためでないことは明らかです。また、出光興産とトヨタ自動車の全固体電池での協業は2013年にさかのぼります。

出光興産とトヨタ自動車のこれまでの取り組み[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

 ちなみに、トヨタ自動車のプレスリリースで「全固体電池」という言葉が初めて出てきたのは2010年11月でした。MONOistには、2012年12月の環境技術の展示会で紹介されたトヨタ自動車の全固体電池の取り組みをまとめた記事が残っています。

時期 トヨタ自動車のプレスリリースなどでの言及
2010年11月 粒子間抵抗の低減に成功し、小型パッケージングが期待できる電池の全固体化に向けて一歩前進
2012年9月 電解質性能が世界最高レベルの新たな固体電解質を開発。これにより、イオンの流れやすさを向上させることに成功し、トヨタの従来型比で出力密度を5倍に向上
2017年10月 東京モーターショーのプレスカンファレンスで全固体電池に言及。「全固体電池は、航続距離を飛躍的に改善するポテンシャルから「ゲームチェンジャー」となりうる技術だ。トヨタは全固体電池に関する特許出願件数において世界トップ。200人以上の技術者とともに、2020年代前半の実用化を目指して開発を加速している」(当時副社長のディディエ・ルロワ氏)

 出光興産に関しては、2009年の展示会で出展された全固体電池の記事がMONOistにあります。出光興産は、石油製品の製造過程で生まれる硫黄成分と、そこから製造できる硫化リチウムの可能性に1990年代半ばから着目してきました。硫黄成分は副産物として得られるため、低コストで純度が高いというメリットもあるそうです。当初、出光興産はEV向けを想定していませんでしたが、EVが普及する手応えを得たことから車載用電池の電解質がターゲットに入ってきました。

石油の精製で硫黄成分が得られる[クリックで拡大] 出所:出光興産

 さらにさかのぼると、出光興産は今から50年前の第1次オイルショックのころに石油が有限な資源であることを意識し、石油に代わるエネルギーや石油を有効活用するための付加価値向上について検討し、研究に取り組んできたとのこと。これが、現在のビジネスである有機EL材料、アグリバイオ、そして全固体電池の固体電解質につながっています。

 現在は石油の埋蔵量よりも、CO2排出削減やカーボンニュートラルに向けたエネルギーの技術革新が大きな課題です。今大量消費されている化石燃料中心のエネルギーをいきなり転換するのは難しいため、出光興産はエネルギーや素材を長年研究してきた強みを生かすとともに、社会実装や量産、コストダウンなど「実現力」も発揮しながらエネルギートランジションに向けたプロジェクトを複数推進しています。

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