製造業に広がるメタバース活用、設計/生産/品質管理の事例を見る(前編)デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(2)(4/5 ページ)

» 2023年10月20日 10時00分 公開

【活用例(2)】工場のラインシミュレーション/メンテナンス

 生産ラインの設計/検討においてデジタルツインの活用は広く拡大している。今まで製造ラインは生産技術部門の熟練エンジニアが2D図面やテキストベースなどの経験とノウハウに基づき検討がなされていた。そのため生産技術エンジニアはライン構想の視覚化が難しく、事前の製造ラインの定量的な生産性シミュレーションや、干渉確認などは熟練者のノウハウに頼る部分が大きかった。

 これらを3Dモデルでのラインシミュレーターを活用することで、検討段階から誰もが見える形で視覚的にライン構想を形にして各組織/協力会社との共有/議論を行える。製造工程では実際に工場を稼働/変更させることなく、工場の設計や試運転、改善シミュレーションができ、定量的なシミュレーションもできるのだ。さらには、これらシミュレーション結果を実機のコントローラーに連動させて動作連動できる。その動作結果をシミュレーションにフィードバックするといった循環も可能となってきている。

図10:製造ラインのデジタルツインシミュレーション[クリックして拡大] 出所:シーメンス

 また、これらの実物大のシミュレーション結果をメタバース空間上に再現し、ヘッドセットを装着し作業者として中に入ることもできる。それによって、実際の作業状況や、作業負担などを自分の身体を通じて確認できるのだ。さらには上記で設計した製造ライン/機器のデジタルツインに対して、稼働IoT(モノのインターネット)動作データをひも付けて遠隔監視や予兆保全に生かす取り組みも行っている。設備メンテナンスの詳細な指示出しにはARを活用している。

図11:製造ラインVR(実際に人間が実物大のラインに入り確認ができる)[クリックして拡大] 出所:シーメンス

「人間デジタルツイン/メタバース」の作業検証

 これまでも製品や機器/設備などのデジタルツイン化/シミュレーションは進んできていたが、現在では「人のデジタルツイン化」も進んでいる。人間動作モデルを活用した操作性の分析、エルゴノミクスを活用した姿勢などの負担の分析や、筋骨格障害など長期的なケガや痛みのリスクなどをシミュレーションする取り組みが進む。

 ヘッドセットをかぶり、身体センサーを装着して複数人で3Dライン上にアバターとして入って製造ラインの作業詳細を確認できる。製造ラインは身長や体格によって動きやすさが異なる。センシングデバイスを通じて自分の体格を再現したアバターで検証ができるため実環境に即した人が働きやすいラインの検討ができるのだ。

 日本企業においては以前からいかに現場の人が気付き、自律的に改善をしていけるのかを意識したニンベンのついた自動化である、「自働化」が重要視されてきた。こうした技術や本来の日本企業の強み/哲学を生かして、「ニンベンのついた」デジタル化の推進が求められる。

図12:製造業ラインのメタバース上での検証[クリックして拡大] 出所:シーメンス

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.