ここからは現在、どのような形でデジタルツインが活用されているのかを具体的に見ていきたい。本章では組み立て産業をメインに紹介するが、プロセス産業での個別論点は後半記事にて後述する。
製品設計の3D化については、従来よりCADソフトウェアを用いた設計の3D化が進んでいる。そこから3D設計を用いた製品開発段階で力/構造/熱/流体などのシミュレーションを行うCAEや、VR上で設計の確認を複数人、あるいは遠隔で行うプロセスが実行されてきた。これによって試作や実験の回数を減らして、開発リードタイムを短縮することが可能になった。
製品がシステムとの連携も含めて複雑化するとともに、ニーズや技術の変化の高速化によってライフサイクルが短縮されている中で、デジタルツインでのシミュレーションは必須になっている。また、脱炭素が求められる中で、エネルギーを最小化するためにいかに軽量化できるかや、環境負荷の低い素材を使った際のパフォーマンスの検討でもシミュレーションが重要になっている。これら製品設計のデジタルツイン化が、あらゆる項目のデジタル化の基盤として重要となる。
サステナビリティを担保する上では、設計時にどのような素材を活用するかも重要な要素となる。例えば、自動車をはじめ多くの業界において重要であるリサイクルプラスチックの活用を検討する場合でも、デジタルツインが効果を発揮する。リサイクルプラスチックを活用する場合、製品ライフサイクルにおけるCO2排出など環境への影響はポジティブなものになる。が、それはコストや品質とのトレードオフだ。
サーキュラーエコノミーの実現に向けてリサイクル/再生品の活用が重要となる中で、このトレードオフを織り込みつついかに意思決定していくかが問われる。ダッソー・システムズは、製品のライフサイクルを素材/設計/製造/使用から廃棄までをライフサイクルと捉えて、これらの影響をモデル化してシミュレーションすることにより意思決定を支援するバーチャルツイン(同社におけるデジタルツイン)を提供している。
モノづくりではかねてより試作/設計においてプロトタイピングを行い、設計イメージを立体的に確認しすり合わせを行う上で3Dプリンタの活用が進んできた。実製造においても、少量/カスタマイズ品や、メンテナンス/補給部品などの製造で3Dプリンタの活用が進んでいる。
航空機などの受注製造産業では実際に3Dプリンタで成形した部品が搭載され、運航されている。こうした3Dプリンタや工作機械(CNC加工機)の活用で、インプットするのは3D設計データだ。3Dデータと機器があれば、ある程度のモノづくりができるようになってきている。モノづくりの民主化が急速に起こっているのだ。
これまで設計にはエンジニアの熟練の経験が必要だったが、設計が3D化してパラメータ管理が可能になっている中で、これらを組み合わせたAI(人工知能)による最適自動設計が、製造業や建設など幅広い産業で進んでいる。ジェネレーティブデザインと呼ばれ、多くの業界で適用が進んできており生成AI(Generative AI)が注目される中で、改めて注目が集まっているユースケースだ。
設計目標や機能、空間条件、材料、製造方法、コスト制約などのパラメーターをソフトウェアに入力すると設計案を自動生成する。高級感や力強さなどのイメージに基づく設計提案も可能だ。自動車や家電など幅広い領域で活用される。
下の写真はGMによる自動車部品のジェネレーティブデザインの事例だ。3Dプリンタによって従来の個別部品の組み立てではなく最終形を成形できるようになり、複雑な形状の製造が可能となる。それら3Dプリンタの特性を踏まえた最適な設計/形状をAIで自動提案するものだ。従来の技術では不可能であったり、熟練のエンジニアでも想定ができなかった設計の提案や、設計プロセスの大幅短縮につながった。
製品設計の3D化は調達の効率化にも生きている。大手生産財販売のミスミは3D設計データをアップロードすると、AIが即座にその形状を認識し、数秒で調達品の見積もりを返すmeivyを展開している。加えて生産側にも連携される。アップロードされた設計データから工場で動く工作機械、検査機器等を動かすプログラムを自動的に生成し直接製造にもつなげることで、調達品の見積もりから製造までほぼ自動化している。
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