注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第17回は、フライバックトランスを使って人工的に放電プラズマを起こす回路を紹介する。
最近のエコブームのせいなのかは定かではありませんが、LEDに代表されるソリッドステートの光が幅をきかせるようになってきました。そのこと自体は何の不満もないのですが、それ以外の明かりが恋しくなるときもあります。そんなわけで、筆者のようにソリッドステートの無味乾燥な明かりに飽きたときには、プラズマの光に癒されてみましょう。
図1は自然が起こすプラズマ現象である雷が落ちる様子です。今回は、この雷のミニチュアを手元の回路で起こしてみようという試みになります。ミニチュアといってもそれ相当の高電圧が必要です。そのためにはフライバックトランスという部品が必要です。かつてテレビやモニターにブラウン管が使われていたころ、フライバックトランスはこれらの機器から取り出すことができたのですが、最近はめっきり目にすることはなくなりました。海外のWebサイトの電子工作系キットを取り扱っているコーナーでフライバックトランスらしきものを偶然見つけたので、早速試してみることにしました。
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図2は今回の実験システムをブロックダイヤグラムで示したものです。
最も重要なデバイスはフライバックトランスです。これは海外サイトから“15KV High Frequency DC High Voltage Arc Ignition Generator Inverter Boost Step Up 18650 DIY Kit U Core Transformer Suite 3.7V”なるキットを購入した際に付いていたフライバックトランスを流用しました。Webサイトではフライバックトランスではなく、Uコアトランスといっていますね。
U字のフェライトコアが、電磁誘導用に1次コイルと2次コイルの2つのコイルをまたぐように取り付けられています。18650タイプのリチウムイオン電池1個の出力電圧3.7Vから1.5kVの高電圧を得られるとのことです。
回路図を見てみるとブロッキング発振回路となっています。昔のラジオ少年ならご存じかと思いますが、当時の電子工作系の雑誌にはよく「電子びっくり箱」と称した工作例が掲載されており、筆者も何度となく作ったものです。要は1次側のコイルと2次側のコイルの巻き数比の大きいトランスを用いて、トランジスター1個でブロッキング回路を構成し、2次側に高電圧を発生させるものです。それで友達にいたずらした記憶があります。今でいえばスタンガンの走りで、そのようないたずらが問題にならなくて良かったと今では思っています。
ということで、このキットを回路図通りに組めば、再現性良く高電圧は得られるのかもしれませんが、その後の発展性に欠けるかと思い、最も効率よく高電圧を発生させるための条件を探るために他励式の発振方式としました。ちなみに、キット自体の発振方式は自励式です。これだと回路は非常にシンプルなのですが、パラメーターなどを自由にいじれません。昔の飛行機が物理法則に従順な機体だったのに対して、最近の戦闘機など機体の形状はわざと不安定にし、あらゆるパラメーターをコンピュータ制御して運動性能を向上させるのに似ていますかね。
それはともかく、今回の実験システムでは制御ブロックとパワーブロックを分離した構成としました。制御ブロックにはArduinoを用いています。Arduinoで任意のパルスを発生させ、パワーブロックではそれをパワーMOSFETで受けて、フライバックトランスを駆動するという仕組みです。
Arduinoで調整できるパラメーターは発振周波数とデューティー比です。周波数の調整はArduinoに接続された可変抵抗(VR)で行います。可変抵抗のノブを回すことによりリアルタイムに周波数を変更できます。また、パワーブロックに印加する電圧は実験用電源で行います。これによりパワーブロックに供給する電圧を調整できます。実験用電源は、想定した電流を上回ると保護回路が作動するので、思わぬ過電流による機器の破損や発煙/発火などの事故を未然に防ぐことができます。
そして、パルスの周波数や波形の調整はオシロスコープで行いました。本来2次側に測定器をつないで出力電圧を測定することも考えられなくもないのですが、以前にPCに接続するタイプのオシロスコープを壊したことがあるのでそこは自重しました。その代わりに2次側にネオン管を接続することで、目視ではありますがその明るさで出力を確認できるようにしました。
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