“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第10回では「振動測定の手段」をテーマに幾つかの方法を紹介する。
今回は「振動測定の手段」について幾つか紹介します。かなり前に“騒音対策をするのなら振動速度を測るべき”と紹介しましたが、その手段も述べます。どの測定手段も測定値は電圧信号で出力されるか、直接テキストデータで出力されます。電圧信号で出力されるものは、それをFFTアナライザに入力するか、オシロスコープで波形を観測し、測定値をテキストデータにします。いずれにしても最後は「Excel」に取り込むことを前提とすればよいと考えています。
オシロスコープは、インターネットで「USBオシロスコープ」と検索するとすぐに見つかります。オシロスコープは測定できる周波数が高ければ高いほど高額となりますが、振動/騒音対策の場合、上限は20[kHz]なので最も安いものでOKです。ただし、分解能が16bitでDCから測定できるもの、入力が4チャンネルあるものを選ぶ必要があります。4チャンネルの内訳は(1)X方向の振動、(2)Y方向の振動、(3)Z方向の振動、(4)トリガ信号です。特に、高い周波数を測定できるオシロスコープの中には、DC波形が測れないものもあるので注意が必要です。
振動測定の最初の選択肢は加速度センサーでしょう。「圧電式加速度センサー」と電源をセットで使います。図1のような構成となり、測定値は加速度に比例した電圧信号で出力されます。BNCケーブルは自分で用意する必要があり、FFTアナライザやオシロスコープに接続します。
図2に「シェア型圧電式加速度センサー」の内部構造を示します。加速度センサー内部で重り(質量m)が圧電素子を介して筐体に固定されています。圧電素子は水晶やセラミックスでできており、変形を加えると電極間に電圧が発生します。反対に電圧を印加すると変形します。感度方向(垂直方向)に加速度センサーが振動変位すると重りに慣性力が発生して圧電素子がせん断変形します。この変形で発生した電圧を増幅して加速度信号とします。水平方向の振動変位があったときも小さいですが垂直方向の振動変位があったかのように信号を出力します。その大きさは1桁%台前半のようです。慣性力を利用しているので原理的に低周波の振動には不向きですが、案外低い周波数の振動を測定できます。仕様書の周波数範囲を確認する必要があります。
加速度センサーと被測定物とは瞬間接着剤で結合するのですが、何十箇所も測定すると指先が接着剤でパリパリになるので、筆者はよく「ペトロワックス」と呼ばれるもので結合していました。米粒をつぶして引っ付けるような感じで使います。ワックス、つまり「ろう」なので、被測定物が温まっていると使えません。加速度センサーの台にねじ止めで磁石を付けることができます。被測定物が鉄ならば効果的です。しかし、振動測定が必要になるような機械は精密なものが多く、ステンレス鋼やアルミ材でできているものもあり万能ではありません。
筆者は、PCB Piezotronics製の加速度センサーを使っていました。筆者が入社する前から職場にあったので、多分この業界では老舗だと思います。購入時の注意点としては、使っているうちに専用ケーブルのコネクター部が断線してしまうことがあるので(マニュアルにはそうならないようにする扱い方が書かれています)、専用ケーブルは2本買っておくことと、輸入品で納期がかかるので、期末に納品が間に合わずに検収できなくなる事態を想定して、期初に手配をかけておけばよいと思います。
感度ですが、1[mV/(m/s2)]、10[mV/(m/s2)]、100[mV/(m/s2)]のものをそろえておくと大概の仕事には対応できます。代表的な仕様を表1に示します。
型式 | − | 352C03 | 352C33 | 352B |
---|---|---|---|---|
感度 | mV/(m/s2) | 1.02 | 10.2 | 102 |
感度の精度 | % | ±10 | ±10 | ±5 |
周波数範囲(±5%) | Hz | 0.5-10000 | 0.5-10000 | 2-10000 |
非直線性 | % | ≦1 | ≦1 | ≦1 |
感度方向と直角方向の 振動に対する感度 |
% | ≦5 | ≦5 | ≦5 |
表1 代表的な加速度センサーの仕様(参考文献[1]) |
実験モーダル解析などをする際は、XYZ方向の振動を同時に測定する必要があります。サイコロのような形の加速度センサーがあり、XYZ方向の振動を同時に測定できます。このとき電源は3個必要になります。
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