3種以上の物質を含む混合ガスを高速検知可能な新たな熱伝導型ガスセンサー脱炭素(1/2 ページ)

東芝は、ガスが3種類以上含まれる混合ガスであっても、それぞれのガスの濃度を測定できる熱伝導型ガスセンサーの開発に成功した。新型の熱伝導型ガスセンサーは、ガスクロマトグラフィーと比べ200分の1の小型化と150分の1以下のサンプリング時間で高速検知が行える。

» 2023年06月26日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 東芝は2023年6月21日、オンラインで記者会見を開き、実環境でリアルタイムにCO2や水素などを3種類以上含む混合ガスから濃度測定できる小型センシング技術を開発したと発表した。実環境でリアルタイムに、物質を3種類以上含む混合ガスからCO2や水素などの濃度を測れる技術の開発は世界初だという。

従来技術と比べ200分の1の小型化と150分の1以下のサンプリング時間で高速検知

 新技術は、東芝独自のMEMS(微小電子機械システム)技術で超小型チップ上に取り付けられる新型の熱伝導型ガスセンサーで機能する。新型の熱伝導型ガスセンサーは、温度センサー、メンブレン(隔膜)、マイクロヒーターなどを備えており、メンブレンのマイクロヒーターによりメンブレンを局所加熱し、ガスの熱伝導率の変化によるメンブレンの温度変化でガスをセンシングする。ガス反応膜を使わないため被毒耐性が高く、基準としたガスと熱伝導率が異なればどのようなガスでも濃度を測れる。

新技術でも踏襲されている東芝の従来のMEMS熱伝導型ガスセンサーの動作原理[クリックで拡大] 出所:東芝

 ガスの濃度を測れる理由について、東芝 研究開発センター 先端デバイス研究所 バックエンドデバイス技術ラボラトリー エキスパートの山崎宏明氏は「水素、メタン、窒素、CO2といったガスは、固有の熱伝導率を持っているため、熱の奪いやすさがそれぞれのガスで異なる。この特徴を利用して、熱伝導型ガスセンサーではガスの濃度を検知している。例えば、熱伝導型ガスセンサーのメンブレンが、基準ガスとして窒素に触れると、メンブレンを暖めたマイクロヒーターの一部の熱が放熱され一定の温度になる。次に、メンブレンがCO2に接触すると、CO2は熱伝導率が低いため、放熱しにくくなり、メンブレンの温度が上がる。一方、メンブレンが水素に触れると、水素は熱伝導率が高いため、放熱がしやすくなり、メンブレンが冷えていく。この温度の変化を温度センサーで検知しガスの濃度を計測している」と話す。

 しかしながら、従来の熱伝導型ガスセンサーは物質が2種類の混合ガスであれば測定可能だが、3種類以上だとどのガスで熱が奪われたのかを測定できない。「そこで、新技術で利用する新型の熱伝導型ガスセンサーでは、感度が異なる2つの熱伝導型センサー素子を備え、センサーの各出力とそれぞれの事前検量線の逆関数からアルゴリズムによりさまざまなガスの濃度をリアルタイムに求められるようにしている」(山崎氏)。

感度の異なる複数個のMEMS熱伝導型センサーによる混合ガスセンシング技術[クリックで拡大] 出所:東芝

 こういった新型の熱伝導型ガスセンサーを実現するために、東芝では、複数のセンサーを近接して設置できる独自のMEMS製造プラットフォームを構築した。独自のMEMS製造プラットフォームは、超小型チップ上に複数の熱伝導型ガスセンサーをまとめて搭載でき、感度が異なる2つのMEMS熱伝導型センサー素子を搭載した新型の熱伝導型ガスセンサーを生産可能だ。「この技術を転用すると、水素センサーやCO2センサー、温度センサー、湿度センサーをまとめてチップ上に取り付けられる」(山崎氏)。

新型の熱伝導型ガスセンサー(左)と独自のMEMS製造プラットフォームで搭載可能なセンサー(右)のイメージ[クリックで拡大] 出所:東芝

 新型の熱伝導型ガスセンサーの性能を調べるために東芝ではシミュレーションと実環境での実証実験を行っている。

 シミュレーションでは、新型と従来の熱伝導型ガスセンサーにより、窒素、CO2、水素を混ぜた混合ガスをセンシングして性能を比較した。その結果、新型の熱伝導型ガスセンサーではリアルタイムに混合ガスにおける、窒素、CO2、水素の正しい濃度を計測したが、従来の熱伝導型ガスセンサーでは正しい濃度を測れなかった。山崎氏は、「シミュレーションでは、最初は両方のセンサーに窒素だけをセンシングさせた後、2%の水素を混入させた。その段階で、従来の熱伝導型ガスセンサーでは、CO2を誤検知するとともに、窒素も誤った濃度を計測していた」とコメントした。

新技術による混合ガス中の各濃度のリアルタイムモニタリングのシミュレーション[クリックで拡大] 出所:東芝

 実環境での実証実験では、CO2電解セルに加湿したCO2を入力し、出力されたガスを、試作した新型の熱伝導型ガスセンサーでモニタリングして、従来技術であるガスクロマトグラフィーの性能と比べた。その結果、ガスクロマトグラフィーと比較して、200分の1の小型化と150分の1以下のサンプリング時間で高速検知が可能であることが分かった他、CO(一酸化炭素)など被毒性のある気体が含まれた混合ガスでも測れることが判明した。

新技術による混合ガス中の各濃度のリアルタイムモニタリングのシミュレーション[クリックで拡大] 出所:東芝

 今後、東芝は、実環境での実証実験で得られた知見をベースにセンサーの構造やアルゴリズムの最適化を行い、さらなる実証実験などを通じて、2026年をめどに新技術の実用化を目指す。また、新技術により混合ガスにおける各ガスの濃度のリアルタイムモニタリングを達成し、カーボンニュートラル社会の実現に向けて「CO2資源化技術」の高効率化や信頼性の高い「カーボンフットプリント」のデータ取得に貢献する。新技術を単体ガスのセンシングにも応用して、水素漏えいの検知や屋内空気質のモニタリング、呼気水素による腸内環境のモニタリングにも活用していく。

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