環境規制が進む六価クロムの機能めっきを代替、日本発新技術の量産を開始日本ものづくりワールド 2023

豊実精工は「日本ものづくりワールド 2023」で、作業者に悪影響を及ぼすことから環境規制が世界中で進んでいる六価クロムを使わずに同等の性能を実現する機能めっき代替技術「Erin」を紹介した。

» 2023年06月22日 07時30分 公開
[三島一孝MONOist]

 豊実精工は「日本ものづくりワールド 2023」(2023年6月21〜23日、東京ビッグサイト)内の「第28回 機械要素技術展」で、作業者に悪影響を及ぼすことから環境規制が世界中で進んでいる六価クロムを使わずに同等の性能を実現する機能めっき代替技術「Erin」を紹介した。

photo Erinを紹介した豊実精工ブース[クリックで拡大]

 Erinは産業技術総合研究所と豊実精工が共同研究を行った「常温衝撃固化現象」を基本とした新しい防錆および耐摩耗コーティング技術である。従来の機械部品における防錆および耐摩耗コーティング技術としては、六価クロムを用いた硬質クロムめっき技術が使われてきた。しかし、六価クロムは処理工程で作業者への悪影響があり欧州ではRoHS指令やELV指令などで環境負荷物質として規制を受けている。また、国内でも六価クロムを使用しない硬質クロムめっき代替技術が求められていた。Erinはこうした背景を受けて開発されたものだ。

photo 常温衝撃固化現象による膜形成のイメージ[クリックで拡大] 出所:豊実精工

 Erinは真空チャンバー内に設置したワークに、塑性変形可能なセラミック微粒子を高濃度で分散させたセラミック微粒子エアロゾルを噴射することで高速で衝突させ、その継続的衝突によりセラミック微粒子が破砕、変形することで、金属ワークの表面にセラミックコーティングが行えるものだ。真空、減圧状態での高速噴射により、熱的な影響なしに高密度、高強度の膜形成が行える。

 表面コーティングにより得られる性能も従来の六価クロムによるめっき技術を上回るという。平板回転摩耗試験(JIS H8503-1989準拠)では硬質クロムめっきに対し約3分の1の摩耗量となり、高い耐摩耗性能があることを示している。加えて、中性塩水噴霧試験(JIS Z2371-2015準拠)による防錆性能についても、他のめっき技術以上の結果を残している。

photo 各種試験の結果。従来めっき技術よりも高い性能を示している[クリックで拡大] 出所:豊実精工

 現状課題として残っているのが、生産性だ。従来のめっき技術が薬液に付けて一気に全表面に膜形成を行うのに対し、Erinは真空チャンバー内でワークに対してセラミック微粒子を3次元に向きを変えながら吹き付けるため時間が必要になる。また、穴の内部のように吹き付ける面が表に出ていないところにコーティングを行うことはできない。これらの効率面などを含め、コスト面でも現在は高額となっている。ただ「生産性の面では現在関連の治具や製造手法の開発なども含め、高める取り組み進めているところだ。コスト面も利用が増えてくると下げていける」(担当者)。

 既に設備などを用意し、2023年夏からは量産可能な状態だとしている。「従来は六価クロムを代替する技術がなかったためにある程度は容認されてきたが、規制を強化する方向性は世界的に強まっている。効果的な代替技術を発信していくことでこうした状況を変えていけるかもしれないと考えている」(担当者)としている。

photo Erinにより表面コーティングしたボールねじとシャフトのサンプル[クリックで拡大]

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