クリスタルイヤフォンは電子技術者の聴診器注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(12)(2/2 ページ)

» 2023年05月16日 07時00分 公開
[今岡通博MONOist]
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RS-232Cの通信音を聞いてみる

 ここからはクリスタルイヤフォンを使って電子回路の通信音を聞いてみます。まずはRS-232C(UART)からがお薦めです。

 RS-232Cはコンピュータと周辺機器、例えば端末あるいは測定装置などを接続する規格として登場しました。ボーレートを変えて聴いてみて、通信速度の違いとその音の特徴をつかんでください。以下に挙げるのは、RS-232CあるいはUARTで用いられているボーレートです。

  • 300bps
  • 600bps
  • 1200bps
  • 2400bps
  • 4800bps
  • 9600bps
  • 1万9200bps
  • 3万8400bps
  • 5万7600bps
  • 11万5200bps

 300bpsはPCで用いられているボーレートの中では最も低い通信速度の一つです。PCの黎明期、作成したプログラムはテープレコーダーに保存していました。このボーレートで直接データをテープレコーダーに書き込むわけではなく、FSK(Frequency Shift Keying、周波数シフトキーイング)で変調してから書き込みます。また、音響カプラーでも用いられていました。まだ、アナログ電話回線用のRJ11コネクターがまだ宅内に設置されている時代ではなかったので、当時黎明期だったパソコン通信をするにはこの音響カプラーを固定電話の受話器に取り付けて通信を行っていました。

図3 音響カプラー 図3 音響カプラー[クリックで拡大] 出所:Wikipediaより、Rama, CC BY-SA 2.0 fr <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/fr/>, ウィキメディア・コモンズ経由で

 600bpsは、その後登場したFSK方式のテープレコーダーへの書き込みおよび読み出しで使われていました。

 1200bpsはSHARP製のPCのテープレコーダーへの記録で使われていました。PWM変調が使われており、これまでのFSKとは異なる音でした。

 少し飛ばして9600bpsは、1980年代に「VAX-11」や「PDP-11」などのミニコンと、「VT100」などのスクリーンターミナルを接続するときに用いられたことから、当時ミニコンやPCを周辺機器と接続する際の標準ボーレートとして定着していきました。

図4 「VT100」 図4 「VT100」 出所:Wikipediaより、ClickRick, CC-BY-SA-3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, ウィキメディア・コモンズ経由で

 現在主流の高いボーレートは人間の耳には到底聞こえない周波数なのですが、それでも分かる特徴が幾つかあります。通信内容に繰り返しが多い場合は、母音が多く含まれます。母音を多く含む通信音の特徴としては、繰り返す文字列が短いと高い音になり、繰り返す文字列が長いと低い音になります。

 もし通信内容が全く繰り返しを含まなければ子音が聴こえます。これは、FMラジオで放送局のない周波数にダイヤルがずれたとき聴こえる「ザー」あるいは「サー」という音に似ています。いかんせん最近のラジオは高性能になりすぎて、放送局のない周波数ではミュートやスケルチといった機能が自動的に掛かってこれらの音は聞こえないかもしれませんね。もし可能ならそういった機能を解除してぜひこれらの音を聞いてください。ラジオの雑音はホワイトノイズに似ていると云われています。もしあなたが電子音源をお持ちであればその音を聴いてみてください。PCやスマートフォンのアプリでもホワイトノイズを生成できると思います。

筆者の体験

 もし驚異的な聴力をお持ちの神耳読者は通信内容まで聞き取れるようになるのかもしれません。ですが筆者のような凡人耳でもこの手法が役に立つ局面が多々あります。

 筆者の経験では、工場など通信機器が分散して設置されている現場などで、通信が途絶えるなどの不具合が生じた場合、不具合の箇所を迅速に探すのにとても重宝した経験があります。本来なら、通信機器間をオシロスコープを使って波形を確認して回っていたことでしょう。当時のオシロスコープはほとんどがブラウン管タイプのものでかなりの重量がありました。また当然100V電源が必須で、電源ケーブルの取り回しなども大変な作業になったに違いありません。クリスタイヤフォンを使う方法だと、それぞれの通信機器のところで端子台にクリスタルイヤフォンのクリップを挟むだけで通信音を確認できます。

おわりに

 最後になりましたが“scope”の用法に、直前の筆者の体験で挙げたオシロスコープが頭に浮かばなかったとは電子技術者として面目ありません。オシロスコープの英語表記は“oscilloscope”になります。幾つかの英単語で“oscillo”が接頭語として使われていますが、それらの用法から推測すると「時系列な変化を見える化するもの」という意味合いが浮かび上がってきます。

 さて、「クリスタルイヤフォンは電子技術者の聴診器」というお題で書いてまいりましたが、共通点は結局“経験”に尽きるのでしょうね。エンジニアの皆さんもRS-232Cなどのシリアル通信などから耳を鍛えてみてはいかがでしょうか。もし電気信号を耳で聞くなどというようなことに取りつかれた読者は、これに限らずいろんなところにプローブを当てて見てください。きっと驚きを禁じ得ない発見があるはずです。

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