マイスターエンジニアリングは鉄道や電気など国内の超重要インフラのメンテナンスに携わる企業や人材を取り巻く環境について行った独自の調査結果を発表した。2030年に3割以上の設備でメンテナンスが成り立たなくなる可能性があると指摘した。
マイスターエンジニアリングは2023年4月28日、東京都内とオンラインで会見を開き、鉄道や電気など国内の超重要インフラのメンテナンスに携わる企業や人材を取り巻く環境について行った独自の調査結果を発表した。調査では2030年に3割以上の設備でメンテナンスが成り立たなくなる可能性があると指摘した。
日本政府は2022年に策定した「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」において、「他に代替することが著しく困難なサービスを提供する事業が形成する国民生活及び社会経済活動の基盤であり、その機能が停止、低下又は利用不可能な状態に陥った場合に、わが国の国民生活又は社会経済活動に多大なる影響を及ぼすおそれが生じるもの」として鉄道や電力、ガス、航空、金融など14の領域を「重要インフラ分野」として定めている。
その上で、マイスターエンジニアリング 代表取締役社長の平野大介氏は「重要インフラは、英語でインポータントインフラではなくクリティカルインフラという。意味合いとして『欠くべからざるもの』で、英語ではcrucial(極めて重大、決定的に重要)の意味に近い。そこで、われわれは『超重要インフラ』という言葉を、本調査レポートでは使っている」と狙いを語る。
これら“超重要インフラ”の維持に重要となるのが、電気、機械の安定稼働だ。そのためには品質の高いメンテナンスおよび人員体制の維持が欠かせない。マイスターエンジニアリングはホテルやビルなどの施設管理や生産設備のメンテナンスなどを手掛けている。そのため、近年の人手不足の深刻化などを体感しており、今回の調査を行う運びとなった。
具体的には総務省の国勢調査や経済センサス、経済産業省の自家用電気工作物設置件数、再生可能エネルギー申請数などの統計や政府報告書、関連団体の推計を用いて独自に調査、将来予測を実施した。
調査によると、2030年には3割以上の設備でメンテナンスが成り立たなくなる可能性が浮上した。2045年には5割以上に高まる恐れがあるという。
2000年以降、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を1.5倍上回るペースで技術者の減少が進んでおり、2030年には技術者の数が2000年比で約3分の2に、2045年には同比で半分以下に減る見込みとなっている。作業は利用者の少ない年末年始や休日、夜間などに電気を止めて行うケースが多く、若手が集まりにくいという。
企業数も、メンテナンス業界を支える従業員数20人未満の中小零細企業は2030年には2009年比で約3割、2045年には同比で約4割減少する見通しだ。「中小零細企業は作業のラストワンマイルを担っている。現場監督はいても、作業を担う実務者を確保できなくなる恐れがある」(平野氏)。
再生可能エネルギーの普及や事業用施設の増加による電力関連設備は増えており、今後迎える既存設備の老朽化も含めるとメンテナンス需要は設置件数以上に増加すると考えられる。関係者へのヒアリングなどから、2015年の時点で既に5%の技術者不足が発生したと見られ、今後企業や技術者がさらに減る一方でメンテナンスが必要になる設備数が増加するため、需給ギャップが広がっていく可能性が高まっているという。電気使用場所と同一の構内に設置する電気工作物の総合体である需要設備などの保安不完全による事故数が増加傾向にあるなど、それらの前兆とみられる現象も起こっている。
会見に同席した一般社団法人人口減少対策総合研究所 理事長の河合雅司氏は「業界の将来像といった分析が多い中、技術者にフォーカスを当てた貴重な資料になっている。社会の基盤を支える部分が人手不足で崩れ始めている。早急に対策を考える必要がある」と指摘している。
こういった状況を踏まえ、マイスターエンジニアリングでは理系学生だけでなく文系学生や未経験者、女性エンジニアへの門戸開放に加え、科学的な教育、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、廃業危機企業の事業承継などに取り組んでいる。平野氏は「これらの取り組みを日本全体で進める必要がある」と述べている。
「オフィスや商業施設などのメンテナンスは年末年始やお盆、土日などに集中する。受変電設備であればメンテナンスは冬場に集中する」(マイスターエンジニアリング 常務取締役の小田真一朗氏)。そういった需要の波解消の必要性についても触れた。
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