連載第11回は「PDMシステムで流用設計を管理する方法」をテーマに、流用設計のデータ構成とPDMシステムの管理のポイント、その際の留意点などについて解説する。
前回に引き続き、今回も架空の会社X社で働くAさんの取り組みを追いながら「PDM(Product Data Management/製品情報管理)システムで流用設計を管理する方法」について考えてみたいと思います。
PDMシステムの立ち上げ、運用を進めるX社では、流用設計に関するデータ整理に着手しようとしています。装置設計の場合、流用設計を行うことは珍しくありません。筆者の経験では60〜70%くらいの比率で流用設計を実施しています。X社も同じような比率で流用設計を行っており、これまでは製番単位で全ての設計データを管理していました。これをPDMシステムでのデータ管理に変えるにはどうしたらよいでしょうか?
まずは、X社が置かれている状況を確認してみましょう。
■X社が置かれている状況
得意とする事業と経営目標:
・カスタム装置の設計/開発/製造
・カスタム装置からのシリーズ化
受注状況:
・カスタム装置だったものと同類の装置について、異なる顧客から五月雨式に注文がある
・顧客は納期短縮を要求しているが、加工部品や購入機器の調達難も続いている
製品設計の特徴:
・最初に設計開発した装置をベースに設計変更を行うという設計思想が定着している
・ユーザーごとに個別仕様が盛り込まれたり、同一ユーザーでも号機ごとに改良が行われたりしている
3D CADデータの流用設計状況:
■問題:
・製番単位で全ての3D CADデータ管理を行っていたため、製番間で重複する同一部品が異なる図面番号で管理されていた。そのため、部品の不具合などによる改訂が生じた場合、改訂漏れが生じていた……
■課題:
・共通部品の一元管理を行う
⇒製番間で重複する同一部品を異なる図面番号で管理しない方法
・流用先の製番を把握する
⇒同じ部品がどの製番を使用しているか「見える化」して管理する方法
Aさんは、どんどん派生していく流用設計データ(3D CADデータ)をPDMシステムでどう管理すべきか検討しています。
従来のように、製番単位で全ての3D CADデータを格納する方法では、共通部品の改訂管理ができません。また、顧客ごとの構成の違いは帳票などに記載されている構成情報からは確認できても、3D CADデータを格納する上で構造化できません。
Aさんは、流用設計における共通部品の改訂管理と3D CADデータの構造化が課題だと捉えています。これらの課題を解決するには、PDMシステムの機能である改訂履歴管理や共通部品のリンク機能が使えそうです。
一般的に、FA向けの自動機などを手掛ける企業では、顧客の要望を受けて一から設計を行うカスタム装置を頻繁に取り扱います。カスタム装置は、同じ種類の装置を大量に製造するケースとは異なり、都度製造を行う個別受注生産が基本となります。また、特定企業向けに開発したカスタム装置と同じような装置を、別の企業から依頼されるケースもあり得ます。
このように、さまざまな顧客からの受注が増加していくと、個別受注生産であっても、納期の観点から、小規模な量産における効率的なマスカスタマイゼーションの実現を意識することになります。マスカスタマイゼーションを実現するには、製品設計における製品のデータ構成を考える必要があります。さらに、モジュール設計に取り組むなど、顧客ニーズを捉えながら設計の合理化を図る高度な施策が設計現場に求められます。
※「モジュール設計」……複数のモジュールを設計し、その組み合わせにより最終製品を構築する設計手法。自動車の開発はその代表であり、この手法により多種多様な製品設計が可能になる。
マスカスタマイゼーション:
大量生産(マスプロダクション)
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個別受注生産(カスタマイゼーション)
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