Silent Switcherは、2013年に旧リニアテクノロジーが発売した電源ソリューションである。スイッチング電源でありながらフォームファクターを小型化しつつ、高効率を実現することで熱設計を容易にし、ノイズやEMI(電磁波妨害)をも低減するという3つの主要性能指標を同時に実現することを目指して開発された。
一般的に、スイッチングレギュレーターは、LDOなどのリニアレギュレーターと比べて高効率であるもののノイズが多いことが課題である。このノイズの原因になっているのが、スイッチング時に発生する急峻(きゅうしゅん)で高い周波数の矩形波によって発生する「ホットループ」である。初代の「Silent Switcher 1」は、このホットループを2つの小さなループに分割することでノイズの原因となる高調波のエネルギーを低減するとともに、2つのループによって磁界を閉じ込めることでEMIの伝搬を防止することに成功した。
ホットループへの対策に加えて、ICパッケージ内における接続をボンデングワイヤからフリップチップに変更するとともに、内部回路であるスイッチドライバのスイッチング電力損失を最小限に抑えた。これらの工夫により、Silent Switcher 1は低EMI、高効率、高いスイッチング周波数をトレードオフなしに実現している。
そして、Silent Switcher 1の発表から4年後の2017年に投入された「Silent Switcher 2」では、アナログ・デバイセズが展開するアナログICや周辺回路に用いる電子部品などを1パッケージに統合したモジュール製品群「μModule」の技術を適用して、入力コンデンサーや2つに分割したホットループを構成するコンデンサー、グランドプレーンをLQFNパッケージに内蔵することでEMIのさらなる低減に成功している。
会見で紹介したSilent Switcher 3については、低周波ノイズの抑制と高速過渡応答という特徴を除き、回路に施した詳細な工夫についてはNDA(秘密保持契約)ベースの情報として開示していない。ただし、「低周波ノイズの抑制は業界トップクラスの低ノイズ性能を持つLDO『LT3045」のレファレンス電源の技術を、高速過渡応答は高ゲインエラーアンプやユニティゲインフィードバックを内部回路に組み込むことで実現している」(藤田氏)という。
Silent Switcher 3の主な用途としては、高速過渡応答と高いエネルギー効率が求められる通信基地局向けのRFトランスなどが有力だが、FAなどの産業機器や車載機器でも、スイッチング電源からLDOを省けることや低EMIによる設計の簡素化などが訴求ポイントになるとしている。
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