パナソニックHDは、人間が知覚できない連続的な色変化(スペクトル情報)を持つハイパースペクトル画像を世界最高感度で撮影する技術を開発した。
パナソニック ホールディングズ(以下、パナソニックHD)は2023年1月26日、オンラインで会見を開き、人間が知覚できない連続的な色変化(スペクトル情報)を持つハイパースペクトル画像を「世界最高感度」(同社)で撮影する技術を開発したと発表した。既存のハイパースペクトル画像撮影技術は感度が低いため晴れた日の屋外に匹敵する明るさ(照度1万ルクス以上)が必要になるのに対して、新技術は室内照明(550ルクス)程度の明るさでも撮影可能であり、動画撮影にも対応できる。今後は、工場での外観検査や、農業で植生状態や病気の発生を見分ける用途などでの実用化を想定しており、パナソニックHD傘下の各事業会社や、一部協力会社などで評価を進めているという。
肉眼や一般的なカラーカメラは、色情報について基本的には赤、緑、青のRGB3色(3波長)の色情報を基に画像の認識を行っている。ただし、可視光線の波長は紫から赤まで連続的に分布しており、RGBの3色よりもはるかに多くのスペクトル情報を有している。RGBの3色よりも細かい粒度のスペクトル情報を持つ画像のうち、10波長以上のものはハイパースペクトル画像と呼ばれており、カラーカメラの画像では見分けがつかない生鮮食品の鮮度や製品の塗装ムラなどを検出することが可能である。
これまでのハイパースペクトル画像を撮影する手法としては、撮影領域をスキャンしてからプリズムによって分光した光をイメージセンサーで撮像する「スキャン式」と、スペクトル情報に対応する色フィルターで特定波長の光を通してイメージセンサーで撮像する「スナップショット式」が知られている。しかし、これらの手法は、スペクトル情報の数に対応して光を波長ごとに分けて撮像するため、スペクトル情報の数に反比例して光の利用効率である感度が低下するという物理的な制約があった。
新たに開発した技術は、医療機器のMRIやブラックホール観測などに用いられている「圧縮センシング」を応用することで、従来技術のハイパースペクトル画像と比べて約10倍の感度を実現することに成功した。圧縮センシングは、ハードウェア的な工夫によって観測データを間引いて効率的に取得する「間引き検出」と、ソフトウェア処理によって間引く前のデータを復元する「復元演算」から構成されている。
開発担当者のパナソニックHD テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 主任研究員の八子基樹氏は「今回の成果で最も独創的なポイントは、空間的にも波長的にもランダムな特殊フィルターで『間引き検出』を実現していることだ」と語る。特殊フィルターは、異なる光透過特性を持つ64種類の小さなタイルをイメージセンサーの各画素に対応するサイズでランダム配置しており、これによって空間的なランダム性を実現した。そして、この特殊フィルターに照射する光の波長が変わると光透過パターンも変わるので波長的なランダム性も実現できているとする。
なお、64種類の小さなタイルには、分散ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)と呼ばれる光の持つ波の性質を利用した構造を適用している。32種類のタイルに2種類のDBR構造を適用することで、64種類の異なる光透過特性を持つタイルを用意することが可能になった。
特殊フィルターで適切な間引きを行うことにより、後段の「復元演算」によって間引く前のデータ復元が可能になる。なお、この「復元演算」では、隣り合う画素は同じようなスペクトル情報を持っていることが多く、各波長の画像が“滑らか”であると仮定して画像推定を行っている。「青の隣がいきなり赤や緑になることはない」(八子氏)。
この「間引き検出」と「復元演算」を組み合わせた圧縮センシングにより、450〜650nmにわたって20波長のスペクトル情報を持つハイパースペクトル画像を取得できている。
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