キヤノンは11.8mWの高出力と高い指向性を兼ね備える発振周波数450GHz(0.45THz)の小型テラヘルツデバイスを開発。これらの出力と指向性は、450GHz出力のテラヘルツデバイスとして「世界最高」だという。
キヤノンは2023年1月16日、11.8mWの高出力と高い指向性を兼ね備える発振周波数450GHz(0.45THz)の小型テラヘルツデバイスを開発したと発表した。3.2mm角のデバイス上に一体集積した36個のアクティブアンテナと、各アンテナに2個ずつ対応する合計72個のRTD(Resonant-Tunneling Diode:共鳴トンネルダイオード)を用いて450GHzのテラヘルツ波を照射できる。36個のアクティブアンテナをアンテナアレイとして動作させることで、全てのアンテナからの出力を合成することにより従来技術と比べて約10倍の出力を実現。全アンテナを同期させることにより、単一アンテナを用いるデバイスと比べて約20倍となる高い指向性も有している。これらの出力と指向性は、450GHz出力のテラヘルツデバイスとして「世界最高」(キヤノン)だという。
今後は、今回の発表と併せて実証を行った透過イメージングが可能なセンサー向けの開発を進めつつ、5Gの次世代移動体通信規格である6Gにおいてさらなる高速/大容量通信のために活用が検討されているテラヘルツ帯向けに合わせた開発も検討していく方針である。
新開発の小型テラヘルツデバイスは、周辺回路を追加した10×8mmの基板に先述した3.2mm角のデバイスを搭載したものとなっている。3.2mm角デバイスは、テラヘルツデバイスの開発で広く用いられているInP(インジウムリン)系の化合物半導体がベースになっている。従来のテラヘルツデバイスは、逓倍(ていばい)器やホーンアンテナ、レンズなどを組み合わせたモジュールが多く、テラヘルツ波の照射方向となる長辺で約100mm程度の寸法になっていた。これと比べると、キヤノンの小型テラヘルツデバイスは体積比で約1000分の1の小型化を実現できている。小型化によって、カメラやスマートフォンなどの電子機器に搭載可能となり、さまざまな用途でテラヘルツ波を活用できるようになる。
2個のRTDは約150μm角の面積に作り込まれており、その周囲にアクティブアンテナを形成している。デバイス開発で課題となったのが、これら2個のRTDと1個のアクティブアンテナの組み合わせを36組分均一に作り上げることと、アクティブアンテナアレイとして1ps(ピコ秒)オーダーの精度での同期動作を可能にする配線設計だった。「化合物半導体ではμmレベルの微細化が難しい上に、回路を均一に作って最適な配線設計を行うことも困難だった。そこで、当社がこれまで培ってきたシリコン半導体デバイスの設計技術と製造技術を活用するとともに、最新のシミュレーション技術も応用することで課題を解決しブレークスルーを果たした」(キヤノンの開発担当者)。
従来技術のテラヘルツデバイスは、出力が約1mWで、指向性を持たせるためのレンズも必要だった。これに対してキヤノンの小型テラヘルツデバイスは、10倍以上に当たる出力11.8mWを実現。発振波の指向性についても、非同期のアンテナアレイが60度になるのに対し、13度まで収束できている。アンテナ利得は、非同期のアンテナアレイが10dBにとどまるが、キヤノンの小型テラヘルツデバイスは24dBで約20倍となった。
今回開発した小型テラヘルツデバイスを用いて、リアルタイムアクティブイメージングにより、数m先から歩いてくる人物の衣服の下に隠された武器(拳銃やセラミックナイフなどの刃物)をリアルタイムで検知/識別するデモンストレーション動画も公開した。遊園地やイベント会場など多くの人が通る入口で、高いスループットで人流を止めない形でのセキュリティ対策への応用が可能としている。
なお、キヤノンではこれまで化合物半導体ベースの高周波デバイスは事業として手掛けていない。テラヘルツデバイスについては2000年代前半から研究開発を進めて技術シーズを暖めており、センサーや6Gなどのニーズが立ち上がりを見せつつあることから、事業化を見据えて今回の発表に至った。「キヤノンは光技術を得意としており、この光技術を拡張するという観点では、周波数が赤外光に隣接するテラヘルツ波についての研究開発を行うことには大きな意義がある」(同開発担当者)という。
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