正極と負極を分けるだけじゃない、「セパレータ」は電池の安全性も左右する今こそ知りたい電池のあれこれ(18)(2/3 ページ)

» 2023年01月16日 06時00分 公開

セパレータの予防機能と停止機能

 機械的強度を高める最も簡単な方法はセパレータを「厚く」することですが、先述の通り、セパレータは電池容量には寄与しない絶縁体ですので、セパレータの厚みによって確保される安全性と、電池のエネルギー密度や入出力特性といった性能は、トレードオフの関係になります。

 安全に寄与する機能というのは、危険事象の発生を未然に防ぐ「予防機能」と、発生してしまった危険事象を抑制するための「停止機能」に分けることができます。

 セパレータの損傷による内部短絡は連鎖的な自己発熱反応である「熱暴走」に直結します。セパレータの機械的強度は、熱暴走のきっかけとなる内部短絡の発生を未然に防ぐという意味では、セパレータに要求される「予防機能」であるといえます。

 それに対して、万が一損傷による内部短絡が発生してしまった場合にそれ以上の反応進行を抑制するような「停止機能」に当たるものもあります。それが「シャットダウン」機能です。

温度上昇のトリガーから熱暴走に至るまでに起きている反応[クリックで拡大]

 異常発熱に伴う温度上昇が発生した場合、危険な熱暴走領域に達する前にセパレータの孔をふさぐことで、電極間のリチウムイオンの移動および反応進行を抑制し、安全に電池機能を停止させることがシャットダウン機能の狙いです。一般的なポリエチレンセパレータの場合、その融点付近の130〜140℃がシャットダウン温度に相当します。

 しかし、熱暴走は連鎖的に進行する発熱反応であること、温度上昇には熱的な慣性が働くことを考慮すると、仮にシャットダウン機能が働いたとしてもいったん発熱してしまった電池は、その後も温度上昇を続ける可能性があります。

 そのため、融点を超えるような高温の領域においてセパレータが融けてしまったとしても、熱による体積収縮を低減し、その寸法を維持することで正極と負極の全面的な短絡を防ぐための「溶融形状保持性」も同時に求められます。シャットダウン領域を超える高温度帯において、セパレータの熱変形によってシャットダウン機能が損なわれてしまう状態のことを「メルトダウン」と呼びます。

 以上のことから、シャットダウン温度は低く、メルトダウン温度は高くし、なるべく両温度の差を大きくすることが、セパレータの安全性向上に向けた1つの設計指針であるといえます。

多層セパレータやコーティング……安全性を高める工夫

 そういった設計指針にのっとり、セパレータの安全性向上のために行われる工夫の1つが「多層セパレータ」です。

 例えばポリプロピレンとポリエチレンを組み合わせた多層セパレータの場合、ポリプロピレン(約165℃)とポリエチレン(約135℃)の融点の違いを利用することで、いずれかの樹脂1種のみから成る単層式のセパレータよりも安全性を向上させています。融点の低いポリエチレン層が先に溶融し、シャットダウン層として機能することで反応の進行を停止しつつ、融点の高いポリプロピレン層によってセパレータの形状を保持することができます。

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