世界初! 超音波AIで冷凍マグロの鮮度を非破壊評価、将来的にはおいしさの判定もFAニュース(2/2 ページ)

» 2023年01月06日 13時00分 公開
[長沢正博MONOist]
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低周波超音波が冷凍物を透過、機械学習で鮮度不良の選別に成功

 富士通ではAIによる新しい価値創出を目指すAIイノベーションと、倫理や品質などAIの社会実装を阻害する課題の解消を図るAIトラストの両輪でAIの研究開発を進めており、超音波AIの研究は2018年から取り組んできた。超音波は材料のさまざまな性質を拾うためノイズが多く、CT(コンピュータ断層撮影)などに比べてAIの活用が難しいとされてきた。研究する企業は少なく、食材の検査への応用も類例はないという。

富士通のAI研究の方向性 富士通のAI研究の方向性[クリックで拡大]出所:富士通
富士通 研究本部 人工知能研究所 自律学習プロジェクトの酒井彬氏 富士通 研究本部 人工知能研究所 自律学習プロジェクトの酒井彬氏 出所:富士通

 富士通 研究本部 人工知能研究所 自律学習プロジェクトの酒井彬氏は「通常、超音波検査では1MHz程度以上の周波数の超音波が使われる。この周波数の超音波は生のマグロに関しては簡単に観察できるが、冷凍マグロについては1cm未満の浅い領域で音波が減衰して不可能であると思われていた。今回は、通常あまり使われることのない1MHz以下の周波数の超音波機器を特別に用意して、冷凍マグロで超音波が透過するかを検証した。その結果、500kHz程度の低周波超音波ならば冷凍マグロでも十分に透過することが分かった。冷凍物は電気を通さないため、中身の検査が今まであまりできていなかった。冷凍物を透過する超音波の周波数を見つけたことが画期的だ」と語る。

冷凍マグロにおける超音波特性冷凍マグロにおける超音波特性 冷凍マグロにおける超音波特性(左)と、今回の研究で明らかになった特性[クリックで拡大]出所:富士通

 一方で、周波数が小さくなると得られる波形の解像度も落ちてしまう。超音波は冷凍マグロの中骨からの反射波の振幅が大きくなるため、この中骨からの強い反射を見れば、その間の身の情報も含んでいると考えた。実際に検証すると、鮮度不良の方が波形の振幅が大きくなったが、目視では判別が困難な波形もあった。これらも分類できるようにAIの構築を図った。

 検証では15cm程度の冷凍マグロの輪切り検体のあらゆる表面から皮越しに超音波波形を取得し、その後、中骨からの反射区間を抽出した。正常と鮮度不良の合計10検体から得られた222波形を学習に用い、合計6検体から得られた126波形を検証に用いて、正常なら0、鮮度不良なら1とする鮮度不良度スコアをAIに算出させた。鮮度不良スコアは正常波形と異常波形で有意差が見られ、正解率にすると70〜80%程度となり、既存の尾切り選別と同程度と期待できるという。今後、市場や食品加工工場などでの実証実験を進め、2、3年後の実用化を目指す。

AI活用の着眼点波形のイメージ AI活用の着眼点(左)と、波形のイメージ(右)[クリックで拡大]出所:富士通

「超音波は粘度や温度など材料の色んな性質の情報を拾うことができる。冷凍マグロも生のマグロのように身が固くなると考えらえ、その結果として波形が変わっているのではないか。東南アジアなどではマグロはツナ缶にして食べられているが、もっと良い方法で食べられる部分もツナ缶にされている。ツナ缶は刺身に比べて価格が約4分の1になってしまう。それらを拾い上げ、商品価値を高める方法として検査の市場を創出していけると考えている。鮮度不良以外にも血栓などの品質異常の検出に取り組み、おいしさの判定にまで踏み込んだ技術開発を行っていき、畜産業や医療、バイオ業界など冷凍物を扱う業界への横展開も目指したい」(酒井氏)

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