特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

マルチキャリアSIM選定のポイントと「IoTネイティブ」への期待徹底解説!IoTビジネスを進化させるマルチキャリアSIM(3)(1/2 ページ)

製造業が注目するIoTをつなぐ上で不可欠な技術になりつつあるのがモバイルネットワークだ。本連載はこのモバイルネットワークの領域で注目を集めている「マルチキャリアSIM」について解説する。第3回は、マルチキャリアSIMの選定ポイントとともに、これからの市場拡大を担うチップ型SIMを用いた「IoTネイティブ」について説明する。

» 2022年11月21日 07時00分 公開

 マルチキャリアSIMの市場はまだまだ拡大の途上にあるが、既に多くのサービスが世に出ている。連載最終回では、IoT(モノのインターネット)に取り組む事業者がマルチキャリアSIM導入を検討する際に考慮すべきポイントについて解説する。また、今後マルチキャリアSIMの市場がどのように推移し、IoTビジネスの進化にどう影響するのかも合わせて考察したい。

用途、目的に応じて優先順位を整理

 IoTに活用するマルチキャリアSIMやモバイルネットワークを選ぶ際、当然ではあるが、あらゆるニーズに応えられる万能のサービスというのは存在しない。自分たちの用途、目的に応じて優先すべきことを整理し、それに適合したサービスを採用する必要がある。

 まず当該のシステムが、「どの程度の容量のデータを、どれくらいの頻度で、どこに送るのか」はマルチキャリアSIMを選ぶかどうかを判断する大きな要素だ。前回前々回とも触れたように、マルチキャリアSIMは国際ローミングの仕組みを使っているのが一般的で、シングルキャリアSIMと比べて高コストになりがちだ。ただし、マルチキャリアSIMは従量課金が基本であることが多いので、定額課金が多いシングルキャリアSIMと比べて、低容量のデータ通信や通信頻度が低い用途ではコスト減になることもある。

 「モバイルネットワークを通じたデータのやりとりがどの程度セキュアであるべきか」も非常に重要な論点だ。前回紹介した事例のように、国内外のビル設備の監視などにマルチキャリアSIMを使う場合、監視データはユーザーにとって重要度が高いデータといえる。そうしたケースでは、オープンなインターネットではなくVPN(仮想プライベートネットワーク)でデータを送信したいというニーズが一般的だろう。マルチキャリアSIMを提供しているMVNO(仮想移動体通信事業者)なども事業者ごとにさまざまな特色があり、コスト面でのメリットを優先してVPNサービスはラインアップしていない場合もある。通信環境をセキュアにしたいという用途では、そうした事業者のサービスは向いていない。

 「必要なデータ通信が片方向なのか、双方向なのか」も議論の土台になる。IoTデバイスからIoTプラットフォーム側にデータを送るだけでいい用途もある一方で、デバイスにプラットフォーム側から遠隔でデータを送り込むようなプロセスがあるIoTソリューションも少なくない。外部のプラットフォームからデバイスにデータを送る場合、固定IPが必要になったり、ダイナミックDNS(Domain Name System)を使わなければならなかったりする場面も出てくるだろう。マルチキャリアSIMサービスベンダーがこれらをサポートできるメニューを持っているかも把握しておくべきだ。

 また、IoTプラットフォームはパブリッククラウド上で稼働しているケースが多い。IoTデバイス向けのSIMには特定のメガクラウドとの親和性の高さを売りにしているものもあるので、自社が利用しているクラウドサービスとの連携しやすさをベースにマルチキャリアSIMサービスを選択するというやり方も一つの方法だ。

海外では「パーマネントローミング規制」に注意

パーマネントローミング規制には注意が必要 パーマネントローミング規制には注意が必要[クリックで拡大]

 グローバルにIoTを展開する際には、IoTデバイスを配置する国に「パーマネントローミング規制」があるかどうかも確認する必要がある。パーマネントローミング規制とは、国際ローミングで一定期間以上の通信を認めない規制である。この規制がある国では、国際ローミングを使ったマルチキャリアSIMでIoTデバイスを常時ネットワークに接続するような使い方はできない可能性が高い。中国、ブラジル、インドなど、日本企業の事業活動が活発な国でもこの規制が適用されている。パーマネントローミング規制への対応を容易にするために、SIMを差し替えることなく現地キャリアの通信サービスが使えるようにソフトウェアで設定変更できるサービスを提供しているマルチキャリアSIM提供事業者もある。

 また、パーマネントローミング規制以外にも、各国の法令に基づいた法規制などの条件や、デバイスの認証取得方法など、国際ローミングSIMを海外で利用する上で確認しなければいけない事項があることは意識しなければいけない。

 繰り返しになるが、マルチキャリアSIMのユーザーは、自分たちのIoTソリューションの用途、目的を改めて高解像度で明確にすることが重要だ。その上で、さまざまな事業者のサービスについて情報収集しながら前述した要件を検討していけば、選ぶべきマルチキャリアSIMサービスは見えてくるはずだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.