MONOist オムロンでは、電子基板の外観検査装置を展開し、今回KTSへの出資で飲料業界向けの検査機をポートフォリオに加えることになりました。ゼロディフェクトの実現を目指す場合、検査データの重要性は高まっていますが、今後も他領域の検査機メーカーに対してM&A(合併・買収)などを進めていく考えですか。
辻永氏 必要があれば、M&Aもパートナーシップもあり得る。そのための探索は継続している。ただ、M&Aを行うほどではないケースが多いのも事実で、そこまでの緊密な連携を要求されない領域も数多く存在する。
オムロンが進めるモノづくり革新コンセプト「i-Automation!」では、「integrated(制御進化)」「intelligent(知能化)」「interactive(人と機械の新しい協調)」の3つの方向性を訴えているが、オムロンの抱える豊富な機器群をベースにこれらをソリューションとして提供する取り組みを進めている。その中でさまざまなアプリケーションの型を構築してきており、特殊な用途やシビアな環境でなければ、これらを活用することで十分な価値を発揮できる。
M&Aに至るポイントは、アプリケーションの特異性や特化された領域であるかどうかという点と、それらを装置として納入する必要があるのかという点だと考えている。これらが合致する領域で、条件が合えば、M&Aの可能性もある。ただ、そこまで要求される領域はそれほど多くはないのではないかと考えている。
MONOist M&Aの候補となる企業について条件はありますか。
辻永氏 オムロンだけではできない技術をカバーしていることが条件だといえる。顧客からの要求に対し、オムロンだけでは実現できないことができるようになるからこそ、M&Aを進めていく意味がある。KTSについても、飲料業界において高速でラインを動くボトルやふたなどを高精度で検知する技術などはオムロンの中にはないものだ。また、飲料業界における多様な要求を知り尽くし、それに応えてきた知見などもある。そういう点が重要だと考えている。
MONOist オムロンとして今後のモノづくりの在り方をどう考えていますか。
辻永氏 今回の出資で実現したいこととして説明したゼロディフェクト、ラインイベントゼロ、高度品質トレーサビリティーなどでも示したように、現場でのデータサイクルをいかに確立するかという点が今後のモノづくりのキーだと考えている。
個々の工程内におけるデータの取得や活用は、特に日本の製造業では浸透している。ただ、それをもう一段進化させるためには、他の工程との連携やその中でのデータ活用が必要になってくる。工程でのデータ活用を進めていくとともに、それを横でつないでいくことが求められる。そこにこれからのモノづくりの進化の余地が残されている。
そのためには、クラウドなどにいちいちデータを上げるのではなく、現場でのデータサイクルを確立していくことが必要だ。現場で工程内、工程間のデータ活用が進んでくると、ライン全体としての信頼性や生産性を高めることにもつながる他、ラインごとに配置していたオペレーターの数を減らすことにもつながる。企業としてのコストパフォーマンスを高めることにもつなげられ、1つ1つの工程での改善では難しかったことが実現できるようになる。こうした前提を変えていくことが必要だ。
MONOist 「i-Automation!」を推進する中で着実にポートフォリオの強化も進んできました。ここまでの手応えと今後の抱負について教えてください。
辻永氏 2022年2月に「i-Automation!-Next」を発表した際にも話したが、2016年に最初に発表した時に思い描いていたことは着実に実現できるようになってきた。ただ、コロナ禍で大きくフェーズが変化しており、新たな技術を取り込み、顧客の変化に対応していく必要がある。オムロンとしてできることを磨いていくことに加え、多くのパートナーと組むことで実現できることを増やし、顧客の要求を超える価値を示していきたい。これらを迅速に進めていく。
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