デジタルツインを実現するCAEの真価

アサヒ直営店の換気性能を評価、点群データからの3Dモデル化とCFDソフト活用でCYBERNET Solution Live 2022(1/3 ページ)

サイバネットシステム主催「CYBERNET Solution Live 2022」の顧客講演に、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ 解析科学研究所の佐藤英明氏が登壇し、「点群データを活用した3DモデリングとCFDによる換気性能評価」をテーマに、アサヒグループ直営店舗内における換気性能評価の取り組み事例を紹介した。

» 2022年09月06日 09時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 サイバネットシステム主催のオンラインイベント「CYBERNET Solution Live 2022」(会期:2022年8月30日〜9月1日)の顧客講演に、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ 解析科学研究所 CAEソリューショングループ グループリーダー シニアマネジャー 博士(工学)の佐藤英明氏が登壇し、「点群データを活用した3DモデリングとCFDによる換気性能評価」をテーマに、アサヒグループ直営店舗内における換気性能評価の取り組み事例を紹介した。

アサヒグループにおけるCAE活用の歩み

 アサヒクオリティーアンドイノベーションズは、アサヒグループの先端研究機能を集約した独立研究子会社として2019年に設立され、「アサヒグループの先端研究の拠点としてグローバルな独自価値創造の源泉となる」という長期ビジョンの下、グループの企業価値向上につながる研究戦略の立案、それに基づく研究開発および新規事業創出に取り組んでいる。

 アサヒグループでは2009年からCAEの本格活用をスタート。導入期においては、サプリメント用錠剤の嚥下(えんげ)性改良や打錠杵(きね)の強度解析を目的にAnsysとOptimusを導入/活用し、その研究成果をアサヒグループ食品から発売されているサプリメントの嚥下性の改良に役立てている。さらに定着期では、ビール用の缶や瓶などの容器包装資材の強度解析を実施した他、陽解法の導入による動的解析の機能の強化、HPCライセンスおよびハイスペックマシンの導入による解析速度の向上などにも取り組んできた。そして、拡張期と位置付ける2019年からは、デジタル計測機器による3Dモデリング機能の強化と多様なソフトウェアの導入による解析対象範囲の拡大に努め、現在は新価値創出を目指し、バイオサイエンス分野に注力しているところだという。

アサヒグループにおけるCAEについて アサヒグループにおけるCAEについて[クリックで拡大] 出所:アサヒクオリティーアンドイノベーションズ

コロナ禍対策を目的に店舗内の換気性能評価を実施

 「点群データを活用した3DモデリングとCFDによる換気性能評価」を行った背景と目的について、佐藤氏は「近年の3Dモデリング技術の進化は著しく、3Dレーザースキャンと点群データ処理ソフトウェアの併用により、大規模な室内空間においても3Dモデリングを行うことが可能となった。そこで、本手法による3Dモデリング作成と、CFD(数値流体力学)による熱流体解析を組み合わせ、コロナ禍対策を目的としたアサヒグループ直営店舗内の換気性能評価を試みた」と述べる。

 解析対象としたのは、アサヒグループ本社ビル横の「フラムドール」と、隣接する「TOKYO隅田川ブルーイング」の直営店2店舗だ。

店舗について 店舗について[クリックで拡大] 出所:アサヒクオリティーアンドイノベーションズ

店舗の点群データ取得からモデリングまで

 店舗空間のモデリングについては、FARO製の3Dレーザースキャナー「Focus3D X330」を用いて点群データを取得した後、エリジオンの大規模点群処理ソフトウェア「InfiPoints」で点群データを結合させてサーフェスデータを得る。そして、Ansysの3Dダイレクトモデラー「SpaceClaim」を用いてサーフェスデータを加工し、ソリッドデータ化するという流れで、各店舗の空間をモデリングした。なお、これら一連のモデリング作業はHPCテックのワークステーションを用いて行ったという。

3Dモデリングについて 3Dモデリングについて[クリックで拡大] 出所:アサヒクオリティーアンドイノベーションズ

 3Dレーザースキャナーによる計測箇所は、フラムドールが1階3点、2階2点の計5箇所、TOKYO隅田川ブルーイングが2階3箇所だ。「使用したFocus3D X330は、非常にスピーディーに計測可能な機器なので、いずれの店舗も約1時間程度で作業を完了できた」(佐藤氏)。

 計測時におけるフラムドールの客席数は1階93席、2階67席の計160席で、占有面積は顧客1人当たり1.85m2、占有体積は同8.90m3。さらに、店舗内の観察と店舗スタッフへのヒアリングを基に、空調の給気は計36箇所(1階16箇所、2階20箇所)、排気は計3箇所(2階のみ)とした。一方、TOKYO隅田川ブルーイング2階の客数は57席で、占有面積は顧客1人当たり1.61m2、占有体積は同3.95m3。同じく、店舗内の観察と店舗スタッフへのヒアリングを基に、空調の給気は計7箇所、排気は計9箇所(天面4箇所、上側面5箇所)とし、それぞれ店舗空間の3Dモデルに落とし込んだ。

3D CADについて/フラムドールの3Dモデル 3D CADについて/フラムドールの3Dモデル[クリックで拡大] 出所:アサヒクオリティーアンドイノベーションズ
3D CADについて/TOKYO隅田川ブルーイングの3Dモデル 3D CADについて/TOKYO隅田川ブルーイングの3Dモデル[クリックで拡大] 出所:アサヒクオリティーアンドイノベーションズ
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