3D図面の活用、その利点について、大田氏は「従来の3Dモデルと2D図面に対し、3D図面での運用では、極力1つのモデルに情報を集約した『3DA』に、オフィス用PCでも閲覧できるような3D軽量データや管理情報をセットにし、パワートレイン領域での活用を進めている。従来、情報がさまざまな所に分散していたが、3D形状と属性がひも付くことで、形状と図面情報の不一致がなくなり、後工程での自動化が容易になる。当社では効果の高いものから優先して、3D図面の活用検討を進めている」と説明する。
だが、従来の2D+3Dでの運用と、3D図面でのトライ運用の結果を工数ベースで比較したところ、従来の2D+3D運用に対して、3D図面ではモノづくりの工程(例:機械加工)は大幅に工数を削減できたが、設計工程においては作図や検図などの作業工数が約2.1倍に増えてしまったという。
その主要因について、大田氏は「まず、検図については、2D(紙)のような手軽さがない、3D図面に不慣れということで、例えば赤ペンチェックのようなやり方だったり、トヨタが独自に使用している2D図面比較ツールを使ったりといった、これまでのやり方で対応できない部分で工数が増えてしまった」と述べる。
一方、作図に関しては、後工程に情報をつなぐための仕込みや、見やすさ向上のための各種設定などに工数がかかってしまったという。「例えば、情報をつなぐための仕込みとして、各アノテーションに対して名前をそれぞれ割り当てる/変更するといった作業を行っている他、図面を見やすくするために断面位置にキルトを置いて、それを断面図とリンクさせるといった仕込みを行っている」(大田氏)。
こうした3D図面のトライ運用の結果を踏まえ、これまで推進してきたデジタルによる開発プロセスをより高度化したものに変えていくために、同社は現在「同期開発コラボレーション」と「3D図面化」に重点を置き、その取り組みを進めているという。
同期開発コラボレーションに関しては、「従来課題に対する打ち手として、同期開発に必要な各種エンジニアリング情報の一元化/共有ツールを開発し、働き方を変える取り組みを行った。具体的には『3D-Sticker』というツールを、『Creo Object TOOLKIT Java』を用いて開発した」(花谷氏)。
3D-Stickerは、3Dモデル上で一斉に相互コラボレーションし、開発上の課題をつなぎ、解決するためのツールである。課題発生時など、3Dモデルに簡単にその内容を書き込むことができ、ひも付いたリストにさまざまな属性情報を持たせ、シーンに応じて、関係者が情報を更新できる。この3D-Stickerを活用することにより、「課題発生時の問題提起から協議、形状作成、最終確認までを3Dモデル上で効率的に進めることができる」(花谷氏)という。
実際、“ムリ/ムダ/ムラ”が生じていた同期開発のプロセスで、3D-Stickerを活用。その効果について、花谷氏は「各担当者の課題が一元化され、関係者全員で要件と進捗をリアルタイムに共有できるようになった。また、関連する他要件の大半を3Dモデル上で事前に確認することが可能となり、議論の効率化につなげられた。さらにワーキングでは、共有の時間が不要となり、すぐに議論を開始できるようになった。自身の要件だけでなく、他用件を含めた形状単位での問題解決を行うことで、同じ部位でのやり直し削減にも効果を発揮している。最終的に、ツールにひも付いた議論結果をモデラーが参照してモデリングすることで、起案からモデル織り込みまで、時間と場所に縛られない同期開発を実現することができた」と説明する。
さらに、3D-Stickerに入力された情報をBIツールで可視化し、進捗管理やプロジェクトでの課題の傾向分析に活用したり、全社サーバに蓄積された過去データをプロジェクト間で利活用したりすることで、「今後さらなる改善効果が期待できる」(花谷氏)としている。
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