3D CADの本格運用に際して直面する「データ管理」に関する現場課題にフォーカスし、その解決策や必要な考え方を、筆者の経験や知見を交えて解説する。第3回のテーマは「正しい出図管理ができていない……」という状況を取り上げつつ、出図管理の考え方やPDMで何ができるかについて述べる。
図面の改訂履歴管理は、紙図面に限らず、3D CADデータの管理を行う上でも重要です。これまでの2D CADの運用、あるいは3D CADを活用するようになってから、あなたの現場では正しい出図管理ができているでしょうか。
2D CAD運用では、2D図面の表題欄に設計者、検図者、承認者の欄があり、それぞれの担当者が押印を行うことで、問題のない正式な図面として承認された後、「出図」されます。
そして、この出図という作業により、設計の成果物として「図面」と「設計部品表(EBOM:Engineering Bill Of Materials)」が資材調達部門に提出され、その一部は部品加工工程にも引き継がれます。筆者の経験では、出図は紙に出力され、そこに出図印を押印したものを資材調達部門に提出します。
3D CAD運用を行うようになっても、2D図面化した上で、紙図面として出図しているのであれば、2D図面上で2D図面設計者自身の検図、設計リーダーなどによる確認や承認を行うことができます。しかし、このベースとなっている3D CADの画面には、設計者、検図者、承認者の欄はありません。では、3D図面の場合、出図に至るまでの図面管理をどのように行えばよいのでしょうか。
ここでのポイントは「何を“正データ”とするのか」です。3D図面での運用の際は“3Dデータが正”、つまり「正しく管理すべきものは3D CADデータである」という考えの下、出図に至るまでの正しい出図管理を行う必要があります。
今回は、正しい出図管理ができていない状況とその課題を確認しつつ、出図管理の在り方について理解を深めるとともに、記事後半では「PDM(Product Data Management/製品情報管理)」を活用した出図管理の概要にも触れます。
では、「正しい出図管理ができていない……」状況を示す3つのシーンを見てみましょう。まずはシーン1です。
【シーン1】
設計課長X:A主任、新入社員のCさんがユニットXの2D部品図設計をしているけど、「ユニットYとの干渉があったので、部品形状を一部変更した」と言っていた。B主任のユニットZとの取り合い関係に問題はないかな?
設計主任A:ユニットXへの部品形状の変更は2D部品図変更の時点で完了しているはずです。B主任には、Cさんに変更箇所がどこかを聞くように話をしているので大丈夫だと思います。
設計課長X:(本当に大丈夫だろうか……。)
デザインレビューが行われると、ユニット(組立図)から「部品図ばらし」といわれる2D部品図設計が行われます。この部品図ばらしは、組立図を描くユニット担当者とは別の人が行うことが(筆者の経験では)ほとんどです。また、このような部品図ばらしの段階で、部品形状の変更が行われることも少なくありません。
筆者が普段使用している3D CAD「SOLIDWORKS」や「iCAD SX」では、同一のCAD製品を使用していれば、3D部品図と2D部品図との間には相互関係があるので、一方のサイズを変更すれば、その内容を確認した後、もう一方に対してその変更内容が反映されます。しかし、3D図面から読み込まれた情報によって作成された2D図面のパラメーター変更は、3D部品図に対して更新可能ですが、そうでないものは更新できません(図1)。
このようなことは、チーム設計を行う詳細設計の過程でよくあります。ユニット間の干渉や加工上の問題から、仕様修正によって部品形状が変更されます。最終的に2D部品図は検図され、紙図面上でチェックされた上で出図されます。
ここでの問題は、出図されるユニットが正式な承認を得たものなのか、それとも詳細設計課程にあるものなのか、その状態(ステータス)が、これを参照したい人には分からないということです。シーン1の現場では、正式に承認されている3D図面なのかどうかが設計チーム内に共有されていないことが問題です。
続いて、シーン2を見てみましょう。
【シーン2】
設計課長X:A主任、ユニットXで使用している部品に不具合があって、新入社員のCさんが再度手配しているようだけど……。
設計主任A:はい。既に組み立て段階だったので、改訂番号を付与して急いで手配しました。
設計部長X:急ぐのはよいが、その情報、設計内できちんと共有できているのだろうか?
このように、開発設計工程で部品が改訂されることは珍しくありません。その際、2D部品図、3D部品図、3D組立図の改訂と更新が行われることが正しい運用です。しかし、再手配をかけるために急がざるを得ず、応急処置的に2D図面だけを修正して出図と手配を行い、その後、正式な方法での改定と更新をし忘れてしまった……という話はよく聞きます。シーン2では、改訂プロセスにおける“正式な図面発行”の手順に問題があります。
そして、シーン3です。
【シーン3】
A主任:B主任、標準ライブラリにある空圧機器エアシリンダ1の部品だけど、3Dモデルが以前見たときと違うようだけど……。
B主任:A主任、組み立て担当よりセンサーが描かれていないというクレームがあったので修正しておきました。
A主任:それはいいけど、センサーケーブルが干渉してるよ……。
繰り返し、設計に使用される標準的な部品や購入品は、3Dモデルのライブラリに保存され、設計者によって共有されます。シーン3では、共有されている部品の形状を、他の設計者が部品同士の干渉などの関係性を理解しないまま更新してしまったことに問題があります。
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