頼るべき“ルール”見えぬ脱炭素、国内製造業は立ち止まらずに進めるのか製造業×脱炭素 インタビュー(2/3 ページ)

» 2022年06月28日 10時00分 公開
[池谷翼MONOist]

見えぬ業界ルールづくりの展望

MONOist 組織づくりにしろ具体的な施策や仕組みづくりにしろ、立ち止まってしまう企業が多いのはなぜでしょうか。

小沢氏 GHGプロトコルにおけるスコープ3について、削減に向けた明確なルールがまだ定まっていない、というのも要因の1つだろう。誤解している人も多いが、GHGプロトコルは詳細な削減基準を示しているわけではない。

 日本企業は一度定められたルールに従って動くことは得意だと思う。自社の直接/間接排出に関わるスコープ1、2については、国内製造業はこれまで、温対法(地球温暖化対策推進法)や省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)に従い、しっかり対策を進めてきた。脱炭素についても、「(制度や法律は)どこかが決めてくれるだろう」「決まるまで様子を見る」というスタンスの企業も多い。

 スコープ3に関しては業界特性の差が大き過ぎるため、本来は業界ごとに基準を決めていくべきだ。実際に欧州などはそうした動きも出ている。今後、国内でルールづくりが進むとしたら、2つのパターンが考えられるだろう。1つは、特定のメーカーが率先してルールづくりを行い、業界全体に広まるパターンだ。もう1つは、複数のメーカーから異なる基準でサプライヤーに削減要請を行うことを問題視して、業界内で足並みをそろえる動きが広まるパターンである。しかし現状では、こうした動きははっきりと見えてこない。

 ただ先にも述べた通り、東証プライム市場上場企業がCDP質問書への対応を示さなければならない状況が、すぐそこまで来ている。ここから業界標準が定まっていく動きが出てもおかしくはないとも思う。

サプライヤーへのヒアリングが思わぬ「削減効果」生むことも

MONOist スコープ3はサプライヤーによるGHG排出だけでなく、製品の輸配送や購入者による製品使用時など、全15項目の企業活動を対象にしています。

小沢氏 CDP質問書はスコープ1〜3の全カテゴリーを対象としている。そのため、企業はGHGプロトコルに記載された全ての企業活動について、その排出量に留意することが望まれる。だが、それではサプライヤーにも15項目全ての削減を望むかというと、そこまで一気に話は進まないだろう。

 そもそも国内製造業では「販売した製品の使用」がGHG排出量全体の大部分を占めるケースが多い。自動車メーカーを中心に多くのメーカーで同じような傾向が見られる。その次に排出量が多いのがサプライヤーに関わる「購入した製品・サービス」だ。ちなみに輸配送の排出量が占める割合は、多くの場合、全体の約1〜2%だ。そこで、現実問題としてメーカーは、「販売した製品の使用」の排出量削減に大いに取り組んでいく必要がある。

 もちろん「購入した製品・サービス」の排出量削減よりも、「販売した製品の使用」の対策を優先すべきかというと、そうはならない。どちらも十分に並行して行える。例えば自動車メーカーであれば、「販売した製品の使用」は自動車の電化で削減できるので、設計/開発部門の活躍が期待されるだろう。「購入した製品・サービス」は購買部門の取り組みが大切になる。

 また、「購入した製品・サービス」の排出量は削減余地が大きい。通常、購入した製品のGHG排出量はデータベースに掲載された排出原単位に従って計算する。しかし、サプライヤーに詳しく話を聞くと、「すでに再生可能エネルギーを大量に導入している」と伝えられるケースがある。つまり、排出原単位に基づく計算よりも実際の排出量が下回っている可能性があり、その場合、それだけで「削減効果」が生じ得る。

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