連載
» 2022年04月13日 09時30分 公開

“おまけ”じゃないコンサル契約の初獲得が「マイレボリューション」に凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで(9)

ある大手メーカーのエンジニアが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、新たなキャリアとして経営コンサルタントになるまでのいきさつを描く本連載。第9回は、エンジニア派遣の付加サービスではなく、独立したコンサルティング契約として初めて「バリューチェーン・イノベーター(VI)」のサービスを提供した際の経験を紹介する。

[桑山和彦(Modis株式会社),MONOist]

 コンサルティングのスキルという新しい武器を携えた私は、営業陣がリストアップしてくれた企業へのアプローチを始めました。経営者が当時のVSN(現Modis)のコンサルティングサービス「バリューチェーン・イノベーター(VI)」に関心のある企業、あるいは派遣エンジニアが大きな信頼を獲得しているような企業です。そのうちの1社が、兵庫県の西宮にある船舶用電子機器のメーカーでした。漁業用機器のカテゴリーの一つで世界シェアのトップを誇る会社です。

⇒連載「凡人エンジニアが経営コンサルタントに生まれ変わるまで」のバックナンバー

 その会社にアプローチする際に私が心に決めていたことがあります。正式なコンサルティング契約を結ぶことです。それ以前のVIは、エンジニア派遣の付加サービスであり、他社に対する差別化要素の一つにすぎませんでした。いわば、一種の“おまけ”です。当然、VI単体での売り上げとして計上されるものではありませんでした。

 コンサルが付加サービスにとどまっていては、クライアントに本気になって取り組んでもらえないということが、私が感じていた大きな課題でした。「ついでにやってくれるのなら、まあやってもらおうか」くらいの感じでは、重要なファクトやデータを共有していただくことができません。ファクトやデータがなければ、クライアントのビジネスに成果をもたらす提案は難しくなります。つまり、質の高いコンサルティングサービスを提供することができないのです。

新幹線代に満たない時給5000円でも感じたコンサルタントフィーの重み

 私は、先方の経営層と直接話ができる関係をつくるため、最初のミーティングで自社の社長に同席してもらい、そこから商談をスタートさせました。こちらの社長を引っ張り出せば、先方もトップクラスの方が対応してくださると考えたわけです。

 幸い、先方の副社長が私の話を聞いてくださいました。私は副社長に「御社の経営の現状をアセスメントし、レポートを作らせていただけませんか。フィーはタダでも構いません。ただし、コンサルティング契約として正式に契約を交わしていただきたい」と率直に申し上げました。それに対して、副社長はこう言ってくださったのです。

「費用をお支払いするので、ぜひやってください。もちろん、契約も結びましょう」

 喜びを隠せずに「本当ですか?」と聞く私に、副社長は言いました。「ええ。お金を払えば、お互いドライになれますから」と。「さすが経営者」と思ったと同時に、緊張で冷や汗が出ました。これは生半可な気持ちではできないぞ、と。

 ちなみに、私が提示した金額は1時間5000円でした。その当時の私のエンジニアとしての時給単価に合わせた金額です。あとで会社に戻ってそのことを上司に話したら、「アホかお前は」と笑われました。東京と西宮を新幹線で1回往復するだけで3万円近くかかります。その交通費も含めた金額だったからです。赤字になることは最初から明らかでした。しかし、それでも私は高揚していました。当時のVSNで初めてのコンサルティング契約だったわけですから。

 アセスメントのプロジェクトは3カ月間続きました。クライアントも本気になってくださり、財務や開発に関わる内部データを見せてもらうことができました。これだけのデータがそろえば、絶対に納得してもらえるレポートと提案がつくれる。そう思いました。その3カ月間ほど、私が全力を傾けて仕事に励んだことはそれまでなかったと思います。

 必死になって仕上げたレポートを副社長に見ていただいたときの言葉は、今でもよく思い出します。

「3カ月でよくここまでわが社のことを把握してくれました。まさにこのレポートの通りだと思います」

 私が提案したのは、収益性の改善プランでした。エンジニア的視点での改善案であれば、「ITツールを導入して、現場業務を効率化する」といった内容になっていたと思いますが、私の提案は経営コンサルの視点で行ったものです。一方で私自身エンジニアであり、派遣していたエンジニアとのコミュニケーションも密に行っていましたから、「現場目線」の要素も提案には含まれていました。現場だけの視点では、経営にインパクトを与える提案はできません。しかし、現場を知らなければ、現実性のない理想論だけの提案になってしまいます。その両方の視点があることがVIの強みであることを、このとき私は実感しました。

 さらに、その提案に基づく改善の取り組みにも伴走させていただき、結果として、相当規模のコスト改善に成功することができました。

 これは、当時のVSNで最初の正式なコンサルティング案件であると同時に、私自身にとっても大きな「レボリューション」となる経験でした。人前でまともに話すこともできず、死んだ魚のような眼をしていた私が、クライアントと差し向かいで議論をし、クライアントのビジネスの成長に寄与できる提案ができるようになったわけです。まさしく「マイレボリューション」と言う他ない体験だったと思います。

筆者プロフィール

桑山和彦(Modis株式会社 コンサルティング事業部 事業部長)

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通信機器メーカー勤務後、リーマンショックを機に株式会社VSN(現Modis株式会社)に転職。入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜てき。多くの企業で現場視点と経営視点の両面を併せ持った問題解決事案に携わる。現在は、全社的にVIサービスを推進するコンサルティング事業部の事業部長として、企業のバリューチェーン強化、DX推進、人事組織開発について実践的なコンサルティングサービスを推進。Modisのコンサルティング領域拡大をリードしている。

Modis https://www.modis.co.jp/

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