ALANコンソーシアムが、2019年度から3カ年で取り組みを進めてきた水中光無線技術の開発成果を報告。レーザー光を用いる水中光無線通信技術では、海中での実証実験で1Gbps×100mを達成しており、水中LiDARについてもMEMSデバイスの採用により初期モデルと比べて容量55%削減、計測点数20倍などを達成している。
ALAN(Aqua Local Area Network:エーラン)コンソーシアムは2022年3月22日、オンラインで会見を開き、2019年度から3カ年で取り組みを進めてきた水中光無線技術の開発成果を報告した。レーザー光を用いる水中光無線通信技術では、海中での実証実験で1Gbps×100mを達成しており、水中LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)についてもMEMSデバイスの採用により初期モデルと比べて容量55%削減、計測点数20倍などを達成している。2022年度は水中LiDARの実証実験を行うとともに、新たに水中光無線技術をどのように社会実装していくのかを検討する社会実装ワーキンググループを設置する計画だ。
JEITA(電子情報技術産業協会)の共創プログラム第1弾として採択された後、2018年6月に発足したALANコンソーシアムは、海中を代表とする水中環境(Aqua)をLAN(Local Area Network)と位置付け、音波や有線などの通信技術とすみ分けながら、水中に最適な光無線技術の研究開発を進めることを目的としている。2019年2月の会見では、水中光無線通信、水中LiDAR、水中光無線給電という3つのWG(ワーキンググループ)を設置して、2019〜2021年度の3カ年で水中光無線技術の開発を進めていく方針を示していた。
ALANコンソーシアムの会員数は、代表の島田雄史氏が代表取締役 CEOを務めるトリマティスなどの12企業と、JAMSTEC(海洋研究開発機構)、AIST(産業技術総合研究所)、NICT(情報通信研究機構)の3研究所、11大学/高校の26団体となっている。2019年2月時点から10団体増えた。2022年1月に、レーザー学会でALAN特集シンポジウムを開催するなどして水中光無線技術の普及活動にも努めている。島田氏は「水中光無線通信については、1Gbps×100mという開発目標を海中での実証実験で達成できたことが大きな成果だ。コロナ禍もあって、水中LiDARと水中光無線給電については本格的な実証実験を行えていないが、2022年度には実施したいと考えている」と語る。
水中光無線通信WGでは、送信機のレーザーのマルチビーム化と、受信機の高感度PMT(光電子増倍管)のアレイ化によって、送信機の最低出力と受信機の最低感度の差に当たるロスバジェットが50dB以上となる光無線通信装置を開発。これらを耐圧容器に収容して水中装置化し、JAMSTECの多目的プールと多目的水槽を用いた水中通信の実験を行った。青色レーザーを用いた場合に1Gbpsの通信速度を確保できたのは通信距離40mまでだったが、緑色レーザーを用いた場合に1Gbpsの通信速度で通信距離100mをクリアできた。
そして2021年11月には、相模湾沖の水深1000mにおいてJAMSTECの無人探査機「かいこう」を用いた海中における1Gbps×100mの光無線通信の実証実験を実施。無事に成功したことで、ALANコンソーシアムとして重要な開発成果を得ることができた。
一方、水中LiDARWGで開発していたLiDARについては、2019年2月の会見で公開した初期モデルがガルバノスキャン方式を採用しており、サイズが大きくスキャン速度も高いとはいえなかった。新たな開発モデルは、MEMSスキャン方式を採用することで、大幅な小型化とスキャン速度の向上を図っている。初期モデルが耐圧容器容量が14.5l(リットル)、スキャン速度が毎秒4000ポイントであるのに対し、開発モデルは耐圧容器容量が55%減の6.6l、スキャン速度が20倍の毎秒8万ポイントを達成した。
なお、水中光無線給電WGについては、東京工業大学と千葉工業大学が基礎実験を進めており、レーザー出力6Wで水中伝搬90cm、このレーザー光を受けて発電する太陽光発電出力で0.76Wを達成している。ただし、技術開発の難易度は他の2つよりも高いというのが実情で「伝送距離は数十cmと短くても非接触で給電したいという用途など、アプリケーションを仮定した水中光無線給電システムでの実証実験を検討したい」(島田氏)という。
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