低温はんだ(LTS:Low Temperature Solder)技術に関しては、同社と千住金属工業との協業により、その実装プロセスを確立し、現在ThinkPadの生産などで活用されている。具体的にはマザーボード、メモリモジュール、指紋認証モジュール、WLAN/WWANモジュールなどに、LTS技術が適用されている他、クリックパッドについても評価中だとしている。
両社は、2013年からLTSの共同研究をスタートさせ、試行錯誤とさまざまな実験/検証の後、2017年に高温はんだと同じ評価項目を全てクリアした低温化技術を確立することに成功し、世界的に発表を行った。そして、現在この特許取得済みのLTS技術は広く無償公開されており、業界全体での地球環境保護に役立てられている。
レノボの中では2016年からLTSの適用を開始しており、2021年末時点で約4700万台のThinkPadがLTS技術を用いて生産出荷されている。また、ThinkPadにおけるLTS技術の活用によって削減できたCO2排出量は累計約9000トンに上るという。
電子機器などに用いられるはんだについては、2006年7月に施行されたRoHS指令が1つの転換点となり、鉛(Pb)フリー化が加速。その後、スズ(Sn)96.5%/銀(Ag)3%/銅(Cu)0.5%からなるPbフリーはんだが業界標準として使用されるようになり、はんだ材料自体の環境負荷は低減されていった。しかし、SnAgCuからなるPbフリーはんだを溶かすには220℃で加熱する必要があり、旧来のPb入りはんだ(183℃)よりも加熱温度が約40℃高く、製造プロセスで見た場合、加熱/冷却にかかるエネルギー使用量が上昇してしまうという課題を抱えていた。
こうした課題を背景に、レノボと千住金属工業が共同開発したのが、Snとビスマス(Bi)からなる新たな低温はんだだ。このSnBiはんだは140℃で溶かすことが可能で、SnAgCuからなるPbフリーはんだと比べて溶融炉の加熱温度を80℃低く設定でき、実装プロセスにおけるエネルギー使用量を抑えられる。また「低温化の実現によって、これまで使うことができなかった熱に弱い部品が使用できるようになる他、熱による部品や基板への影響も抑えられ、生産設備そのものも壊れにくくなる」(千住金属工業 研究開発部 統轄部長の島村将人氏)といったメリットも得られる。
その一方で、SnBiはんだはPbフリーはんだよりも硬く、例えば、電子機器を落下させてしまった場合に、はんだ接合部が割れてしまうといったリスクが起こり得た。これがSnBiはんだの普及を阻害する要因にもなっていた。そこで両社は、この耐衝撃性に対する懸念に対して、「実装プロセスや筐体剛性の最適化などを図りこの問題を解消し、高い堅牢性がウリのThinkPadの基準に適合させることに成功した」(島村氏)という。
また、SnBiはんだは実装時の省エネ化を実現するだけでなく、原材料の採掘や精錬に必要なエネルギー使用量も従来のPbフリーはんだよりも低く抑えることが可能で、非常に高いCO2排出量削減効果も期待できるとしている。
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