ADASや自動運転に不可欠な車載ネットワークの高速化、今後の進展は車載ソフトウェア(2/4 ページ)

» 2022年02月25日 06時00分 公開

ゾーンアーキテクチャ

 エンジニアは常に複雑さを減らそうと努力をしています。車載ネットワークでも同じです。図1は、バックプレーン内で5つの異なるデータレートを使用する車両の概念図です。かなり簡略化してありますが、幾つかの技術と規格がどのように連携するかを想像するのに役立ちます。

図1:ゾーンベースの車両ネットワークアーキテクチャの概念図[クリックで拡大] 出所:キーサイト・テクノロジー

 ゾーンアーキテクチャは、複数の入力をまとめた「多対1」のアーキテクチャからデイジーチェーン式の1対1のアーキテクチャに移行して、最終的にワイヤリングハーネスの複雑さ、コスト、重量を軽減します。これはゾーンベースのアーキテクチャの例です。他のアーキテクチャではドメインベースが採用されています。どちらもカメラとセンサーのデータを集約し、イーサネットが各ゾーンや各ドメイン間のインターコネクト(相互接続)として機能します。

 中央演算処理装置は、ネットワーク化されたゾーンゲートウェイを介してセンサーとデバイスにリンクされているため、ゾーンアプローチでは信頼性と機能性が向上するだけでなく、より優れた拡張性を提供することができます。

SerDesの導入

 今日のインフォテインメントシステムでは、車載カメラやディスプレイは、SerDes(シリアライザー/デシリアライザー)接続を介して画像処理用電子制御ユニット(ECU)に接続されるのが一般的です。現在、各サプライヤーはクローズドな独自仕様を使用して提供しています。

 機能豊富なSerDesリンクを拡張するには、ボーレート(baud rate)を下げ、より高次な変調(PAM-4など)で動作させる必要があります。さらに、ゾーン間のプライマリ相互接続として、IEEE 802.3chに基づいて最大10Gbpsのスループットをサポートする、より高い帯域幅のイーサネットリンクが必要になるでしょう。

 Mobile Industry Processor Interface A-PHY(MIPI A-PHY)(※1)や、Automotive SerDes Alliance(ASA)などの新しいSerDes規格は、複数の半導体ベンダーが実装することになります。これにより、アプリケーションに特化した機能を実現しつつ、コストを削減するような競争市場が生まれます。

(※1)ADAS/ADSサラウンド・センサー・アプリケーションおよび車載インフォテインメント・ディスプレイ・アプリケーションを対象とした物理層仕様。

 また、相互運用性の要件を確立するために、エコシステム全体でテスト方法を標準化することが望まれています。実装メーカーとテストベンダーにとっては、このことは半導体ベンダー、ティア1サプライヤー、自動車メーカーの要件の統合を意味します。テスト要件の統一により、半導体ベンダー、ティア1サプライヤー、自動車メーカーは、開発サイクルを加速してコストを削減し、他の商用デバイスとの相互運用性を向上させることができます。

 図2は、車載ディスプレイのユースケースの一例です。これは、新しくリリースされたMIPI A-PHY規格に関する図でMIPI Allianceによる提供です。

図2:車載用ディスプレイのユースケース[クリックで拡大] 出所:MIPI Alliance、https://groups.vesa.org/wg/AES/document/16623

 次世代SerDesの機能の中には、プロトコルのトンネリングと適応により、将来のサービス指向アーキテクチャをサポートするものがあります。これにより、新しいSerDes規格は、デイジーチェーンリンクに沿って、従来の自動車プロトコルを適切なECUやブリッジデバイスに転送できるようになります。

 ストリームの複製は、プライマリリンクに障害が発生した場合に、セーフティクリティカルシステムが自身を複製する手段を提供し、デイジーチェーンを使用することで、複数のSerDesポートをバックツーバックで接続し、リンク上のデータを集約してからECUに到達させることができます。最後に、機能の安全性はISO 26262に準拠するエンドツーエンドのプロテクションメカニズムを提供することで対処しています。

 これらの機能は、次世代のADASや自動運転車では歓迎されますが、幾つか克服すべき課題もあります。さまざまなメディアに依存するMDI(Medium Dependent Interface)ケーブル、コネクター、ネットワークのセキュリティ、他サプライヤーとの相互運用性、プロトコル分析に用いられるPAM-Nネットワークの線形性とPSD(パワースペクトラム密度)を保証するTx(送信系)テストの技術的な懸念などです。

 また、過酷な自動車環境での動作を保証するために、電磁干渉(EMI)に対するレシーバーの安定性を検証することも重要になります。これはSerDesのRx(受信系)端子にあらかじめ定義され、校正されたレベルのノイズを注入しながら、許容誤差範囲内でシンボルのクロック周波数を監視する複雑な測定方法です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.