テストでバグ発見!(8)状態遷移モデルで扇風機シミュレーターのバグを摘出せよ【解答編】山浦恒央の“くみこみ”な話(150)(4/4 ページ)

» 2022年02月17日 10時00分 公開
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4.4 気付き

4.4.1 出力データの出力タイミングがおかしく見える

 入出力(input.csvとoutput.csv)を確認すると、出力データのタイミングにバグがあると思った人もいるでしょう。

項番 運転ON/OFFボタンステータス
(0:OFF 1:ON)
モード変更ボタン
(0:OFF 1:ON)
動作管理ステータス
(0:アイドルモード 1:運転モード 2:減速モード)
運転管理ステータス
(0:OFF 1:ON)
運転モードステータス
(弱:0 中:1 強:2)
モーター回転数
1 0 0 0 0 0 0
2 1 0 1 1 0 0
3 1 0 1 1 0 50
4 1 0 1 1 0 100
表3 出力ファイルの例

 表3を見ると、運転モードになっているのに、なぜモーター回転数が上昇しないのかと思う人もいるでしょう。例えば、項番2を見てください。今、動作管理ステータスが運転モードにいるのでモーターの回転数は50になっているはずと思われます。これは、プログラムの内部構造によるものです(図8)。

図8 図8 本プログラムの基本的な処理フロー

 図8は、このプログラムの基本的な処理フローです。項番2で運転ON/OFFボタンを押下する場合は、アイドルモードですので、結果的に、アイドルモード状態で、アイドルモードから運転モードに切り替える処理だけを行いログを記録します。結果として、回転数を上昇する処理が行われませんので、回転数は0のままとなり、1回分遅れて見えてしまうのです。

 このように、「ログがいつのデータなのか」というのは評価担当者には分からないので、開発側にフィードバッグし、バグかどうか確認しましょう。「このログに出ているのは実は1回前のデータなんです……」のようなログの出力タイミングのズレみたいなものがある場合があります。

4.4.2 減速モード時に電源ONをする

 今回の問題では、減速モード時に電源ONを押しても無視するプログラムとなっていました。この場合、減速時に電源ONを押しても反応せずに、違和感を持つ可能性があります。表現方法の一つとして、減速モード時に電源ONを押すと運転モードに戻ってくる仕様としてもよいでしょう。

5.終わりに

 今回は、状態遷移モデルを題材とした扇風機シミュレーターの問題の解答編でした。組み込み系のソフトウェア開発では、状態遷移図・状態遷移表を用いて作成すると、構造が簡単になり、入出力の動作が理解しやすくなるので、実装・テストが分かりやすくなります。また、誰が設計してもほぼ同じ構造になりますし、保守や変更も容易になります。仕様書を見たら、最初に状態遷移モデルで実装することを考えるといいでしょう。

 状態遷移モデルをベースにしたソフトウェアをテストする場合、状態遷移表のマス目と状態遷移図の線は、確実にテストしましょう。例えば、「ある状態から抜け出せない」「別のモードに遷移する」というバグなどが見つかる可能性があります。

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【 筆者紹介 】
山浦 恒央(やまうら つねお)

東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士)


1977年、日立ソフトウェアエンジニアリングに入社、2006年より、東海大学情報理工学部ソフトウェア開発工学科助教授、2007年より、同大学大学院組込み技術研究科准教授、2016年より非常勤講師。

主な著書・訳書は、「Advances in Computers」 (Academic Press社、共著)、「ピープルウエア 第2版」「ソフトウェアテスト技法」「実践的プログラムテスト入門」「デスマーチ 第2版」「ソフトウエア開発プロフェッショナル」(以上、日経BP社、共訳)、「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」「初めて学ぶソフトウエアメトリクス」(以上、日経BP社、翻訳)。


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