本稿で共有した以外にもTSNの利点や活用方法はさまざまなものが想定されています。TSNの技術そのものもまだまだ進化を遂げています。これらの技術を組み込んださまざまな規格も発表され、具体的に機器に実装されるための手順なども議論が進められています。
例えば、ドイツのモノづくり革新プロジェクトである「インダストリー4.0」の参照モデル「RAMI4.0」では、マルチベンダー間通信の標準規格として「OPC UA」が取り上げられていますが、2018年にはこのOPC UAでTSN対応を行った「OPC UA over TSN」のフィールドレベルでの適用が発表されました。
同じく2018年にCC-Link協会からは、産業用ネットワークではいち早くTSN対応を表明し「CC-Link IE TSN」の仕様公開を行いました。2019年にはPROFIBUS & PROFINET International(PI)から「PROFINET over TSN」の仕様も公開されています。
規格の策定だけではなく、2019年4月に開催されたハノーバーメッセ 2019では「Industrial Internet Consortium(IIC)TSN Testbed 」「Labs Network Industrie 4.0 (LNI 4.0)Testbed」「EC OPC UA over TSN Testbed」など、多くのTSNを活用したテストベッドでの進捗が共有されました。このように2021年以前の段階で一定のドキュメントなどが整理され、テストベッドなどの情報がそろってきた状況です。
既に2021年から一部の製品化は進んできていますが、さらに2022年以降は具体的な製品の開発も進み、現場で使える製品が数多く供給されてくることが期待されています。また、有線における規格だけではなく、無線通信の分野でも次世代の無線通信となる「Wi-Fi7」においてもTSNの採用が議論されており、今後さらに利用範囲は広がってくる見込みです。
IIoTやDX(デジタルトランスフォーメーション)という流れが現実のものとなってくる中、高度な信頼性を保ちつつ自由度の高いネットワーク構成が求められる環境はさらに広がってきます。既にTSNにおいても、PoC(概念実証)をはじめ、具体的な実装や検討が進んでいるケースも出てきています。筆者はこのTSNという技術が新たなネットワークインフラの中心技術になると見ています。これから広がるであろう新たな基盤となる技術に投資を進めるため、本稿が検討の1つの材料になれば幸いです。
長澤宣和(ながさわ のりかず)
MOXA Japan プロダクトマーケティング部 部長
2001年からネットワークベンダーでネットワークを中心とした情報通信インフラ設備の提案や導入に従事する中、2019年からMOXA Japanに所属。特に製造業を中心としたIoTビジネス推進や工場ネットワーク構築などを中心とした提案活動を行っている。
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