特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

スマート工場化が行き着くと、現場の「働きがい」はどうなるのかいまさら聞けないスマートファクトリー(15)(3/4 ページ)

» 2021年12月17日 13時30分 公開
[三島一孝MONOist]

日本のモノづくりと欧米の捉え方

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どう捉えたらいいんでしょうか。


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ドイツでは「インダストリー4.0」の一環として労働環境の変化に合わせた「ワーク4.0」という白書も出されたりして、そういう働き方の変化にどう社会として対応していくのかという議論なんかもあるわね。


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そうなんですか。日本ではそういう体系だった動きはなくて、個々の企業でどう考えるのかという話になっています。


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ただ、今の話のような「モノづくりへのモチベーション」というようなところは、日本の製造業ほど大きくないんじゃないかしら。スキルシフトや教育の問題、労働の流動性の問題をどうするかというような話が中心のようだわ。


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そうなんですか。


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欧米では「仕事は仕事」という割り切ったところもあるし、機械がやってくれるならそれにこしたことはないという考え方が多そうね。


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だとすると、自分たちで考えていかなければならないわけですね……。


 ドイツのモノづくりプロジェクトである「インダストリー4.0」では、こうしたスキルや労働環境の問題なども含めた議論が進められており「ワーク4.0」などの白書なども出され、スキルシフトやその支援などについても話し合いが進められています。ただ、国民性の違いなどもあり、そこまで「モノづくりのモチベーション」への優先度は高くなさそうです。

 ドイツと日本の共同研究「Revitalizing Human-Machine Interaction for the Advancement of Society(デジタル社会における人と機械の新たな関係)」の発行者の1人である日立製作所 研究開発グループ 生産イノベーションセンタ 主管研究長の野中洋一氏は、同研究の議論の中でドイツとの認識の違いについて、以下のように話していました。

 「日本側は文化的な背景なども含めて、ロボットや機械を同等の存在と捉えているところがあり、だからこそ人の仕事を機械やロボットが置き換えるということを身近に現実的なものとして感じられる。一方でドイツ側は、機械やロボットはノリやハサミと同じように『道具の1つ』という感覚だ。だから、自動化が進んでもこれらの道具を扱う人は変わらないという考えを訴えていた。ここは、それぞれの考え方が大きく隔たっており、一致しない点だった」(野中氏)

スマート工場化で必要な「働きがい」の再定義

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ただ、マクロ的な視点に立った時に、人手不足の問題やモノづくりの高度化の問題、トレーサビリティーの問題などから、機械に任せる部分が増えていくという流れは変えようがないとは思うわ。そこは、もう受け入れるしかないところよね。


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それはもちろん理解しています。現場のみんなも頭では理解はしているとは思うんです。ただ、気持ちの部分ですよね。


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だとすると、そういう中での人の役割をあらためて示して、働きがいを作っていくしかないのではないかしら。


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働きがいを作る?


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定義が難しいけれど、働きがいは「自分の力が役に立っている」という実感を得られるということじゃないかしら。だったら、そういうものをつくるということよ。さっきの「頭では分かるけど気持ちでは理解が追い付かない」というのは、自分たちが積み上げたスキルが無駄になることの懸念や、これからその力が役に立たないものと位置付けられる不安など、かみ砕けばいくつかの要素に分けられると思うの。それを1つ1つ解決していくということよ。


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なるほど。少し考え方のヒントが見えてきました。


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そのためには、企業として人の価値や役割をどのように見ていて、こういう方向性で力を発揮してほしいというような考え方を定義して発信するということが土台になるとは思うわ。


 スマート工場化が進めば、現場での人の役割も当然変化してきます。スマート工場化については、技術やスキルの面で語られることが多かったですが、本当に進めていくためには、人事制度や体制、また各業務部門のミッションの再整理なども含めて、あらためて組織的に検討すべき内容も多いのは事実です。そして、その中で、現場が培ってきたスキルを生かし、人のモチベーションや働き方の再整理なども含めて検討を進めていくべきだと考えます。

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