特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

スマート工場化が行き着くと、現場の「働きがい」はどうなるのかいまさら聞けないスマートファクトリー(15)(2/4 ページ)

» 2021年12月17日 13時30分 公開
[三島一孝MONOist]

スマートファクトリー化で生まれる働きがい問題

 今日も矢面さんは印出さんを訪ねてきました。なんだか今日は暗い顔ですね。

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印出さん、こんにちは。この前はありがとうございました。協働ロボットをどう活用するか今具体的に検討が進んでいます。まずは作業を切り分けて使えるところがないかを探しているんですが、いくつかで効果が得られそうなので、実証を進めるところです。


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あら、よかったじゃない。一歩一歩着実に進んでいるわけね。それで、今日はどうしたの? 暗い顔しているわね。


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そうなんですよ、印出さん、実は結構悩んでいまして……。なんというか、印出さんに相談しても、すぐに解決する問題ではないと思うのですが……。


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歯切れ悪いわね。矢面さんが悩んでいるのはいつものことでしょ。


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そうなんですけど、今回のはいつもよりちょっと重くて……。実は、私の大好きなモノづくりの先輩がいて、まだ現場で頑張ってくれているんですが、その人に今私が進めているスマート化の動きが「つまらない」って言われたんです。


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あら、「今までのやり方を変えたくない」とかそういう話?


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いや、違うんです。その人はむしろ協力的で、私の提案や新たな取り組みに積極的に協力してくれているんです。その人のおかげで現場の協力が得られてうまくいったこともいくつもあるんです。


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じゃあ、どういうことなの?


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今までは自分たちが手を動かして、製品を作っていましたよね。でもスマート化で自動化領域をどんどん広げていくと、作るのは機械だという領域がどんどん増えていきますよね。それで、現場の人たちは何をやるのかというと、機械の様子を見たり、メンテナンスをしたりする比率が増えてくるわけです。それが「つまらない」と……。


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なるほど。そういうことね。


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今まで私はスマート化を進めるのは、作業負荷を下げられたり、無駄なことを減らせたり、現場のみんなの役に立つことだと考えて、だからこそ頑張ってこられました。それが、逆にみんなのやりがいを奪うようなことになっていると考えると、根本から揺らぐような感じになってしまって、どう受け止めたらいいのか分からなくなってしまって……。


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確かに根深いし、矢面さんにとってはつらいわね。


 確かに、スマートファクトリー化を進めることで、自動化領域が拡大すれば、将来的に人が実際に手を動かして直接製品を作るということは少なくなってきます。そうなると「作る機械の世話をするのが人の役割」になっていきます。化学プラントなどのプロセス製造業や半導体などの高度な電子デバイスの領域では、人手の能力を超えた領域でのモノづくりとなり、もともと「人手で直接作る」という比率が多くありません。ただ、自動車や電子機器などその他の組み立て製造業では、人手でのモノづくり領域が数多くありますので、これらを支えてきた人のスキルをどう生かし、モチベーションをどう作っていくのかということは日本の製造業にとっても大きな課題となると考えられます。

 特に日本のモノづくりは、現場の人材の高い意識やモチベーションにより、改善活動などを繰り返し進めていることで「強い現場力」を保ち、それが製品力や品質につながってきたという歴史があります。世界の他の国に比べても現場のモチベーションへの配慮が必要な国だといえるのです。これらの問題は「人の幸せとは何か」など倫理的な問題にもつながる話なので、明確な解答がない領域だと思いますが、特に日本においては考慮していくべき問題だと考えます。

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