ルネサス エレクトロニクスは「IIoT Growth Talk」と題したオンライン会見を開き、同社の産業・インフラ・IoT(IIoT)向け事業の中から産業オートメーションとモーター制御の分野にフォーカスして、市場の概況や同社ビジネスの成長ポテンシャルなどについて説明した。
ルネサス エレクトロニクスは2021年12月9日、「IIoT Growth Talk」と題したオンライン会見を開き、同社の産業・インフラ・IoT(IIoT)向け事業の中から産業オートメーションとモーター制御の分野にフォーカスして、市場の概況や同社ビジネスの成長ポテンシャルなどについて説明した。
2021年のIIoT向け事業の売上高は、産業分野が前年比15%増、インフラ分野が同18%増、IoT(モノのインターネット)分野が同30%増と堅調に成長を続けている。今回の会見のテーマとなる産業オートメーションとモーター制御の2021年の売上高は、産業分野の一角を占める産業オートメーションが前年比20%増、産業分野とIoT分野と関わるモーター制御が前年比30%増となるなど、けん引役となっている。ルネサス 執行役員常務兼IoT・インフラ事業本部長のサイレシュ・チッティペディ(Sailesh Chittipeddi)氏は「現在、旺盛な半導体需要が供給を上回っており、当社工場、協力工場ともフル回転で生産している。特に、パッケージ基板、リードフレーム基板のリードタイムが長くなっており、52週に及ぶ場合もある。2022年の初めまでこの状況は続く見込みだ」と語る。
産業オートメーションのルネサスの顧客には、ロックウェル・オートメーション、エマソン、シーメンス、シュナイダー・エレクトリック、デルタ電子、三菱電機、ファナック、安川電機など、国内外の大手メーカーの名前が並ぶ。チッティペディ氏は、産業オートメーション市場における2つの傾向を挙げた。1つは、アジアなどの新興のメーカーが新技術の採用に積極的であることだ。もう1つは、制御システムの中核チップとして、従来型のASICからMPUやMCUへの移行が進みつつあることだ。「ただしこの傾向の中でも、当社のASICを選ぶ顧客が多くいるという事実もある」(同氏)という。
産業オートメーションの構成をピラミッドで表すと、サーバやクラウドなどにデータを収集して分析する分析層を頂点に、制御層、アクセス層に分けることができる。これらのうち中間の制御層ではEtherCATやEtherNet/IP、PROFIBUSなどの産業ネットワークが用いられており、最下層のアクセス層ではIO-LinkやAS-i、SPE(Single Pair Ethernet)、HARTなどのフィールドネットワークによってセンサーやアクチュエーターなど末端の機器が結ばれている。
ルネサスは各層で用いられるさまざまな半導体製品を供給しているが、チッティペディ氏が今後の産業オートメーションにおける成長をけん引すると見ているのがアクセス層だ。さまざまなセンサーやアクチュエーターの精緻な制御を行うMCUの役割が高まると同時に、シグナルコンディショニングなど周辺ICなどの需要も拡大する。さらに、アクセス層では次世代の無線LAN規格であるWi-Fi 6/Wi-Fi 6Eの導入も広がると見ており「2021年10月に買収を発表したCeleno Communicationsの技術が役立つ」(同氏)。
ルネサスの2020年の産業オートメーション売上高では、ASICが38%、MCUが38%と大きな割合を占め、残りはアナログ17%、パワー4%、MPU3%となっている。ASICとMCUに偏重している売上高比率は今後、アナログ、パワー、MPUの成長によってよりバランスのよい構成になる見込みだ。チッティペディ氏は「IDTやDialog Semicondutorなどが加わってアナログ製品がより充実しており、制御層ではMPUの需要が拡大するとともに、効率的に電力制御を行えるPMICなどのパワー製品もMPUとの組み合わせで伸ばせるだろう。ルネサスは産業オートメーションのワンストップショップとして貢献できる」と強調する。
産業オートメーション向けのMPU「RZファミリー」は、「RZ-T/Nシリーズ」がリアルタイム制御用途でシェア2位、「RZ-G/Aシリーズ」が64ビットLinuxシステムのMPUとしてシェアトップとなっている。また、組み込みAI機能を搭載する「RZ-Vシリーズ」は市場の平均成長率に対して3倍の伸びを示しているという。
ルネサスでは製品の早期開発に役立つソリューション「ウィニング・コンビネーション(ウィニングコンボ)」をはじめ、同社のMPU/MCUとアナログ、パワー製品の組み合わせたソリューション展開に注力している。産業オートメーションでも同様の取り組みを進めており、PLCであれば従来のMPU/MCUのみで20米ドルの売り上げだったところを、アナログやパワーを組み合わせることで30米ドルまで積み増すことが可能だ。同様にサーボモーターで6米ドルから15米ドル、多軸ロボットで10米ドルから25米ドルに増やせるとしている。
チッティペディ氏は、Celeno Communicationsの買収によってルネサスのポートフォリオに加わるWi-Fi 6/Wi-Fi 6Eが産業オートメーションのアクセス層を中心に浸透することを強調した。特に、Wi-Fi 6Eでこれまで利用されていなかった6GHzの周波数帯の利用による帯域混雑の軽減や、マッシブMIMOによる多数接続、接続範囲の拡大、低遅延などが大きなメリットになるという。さらに、Celeno Communicationsが有するWi-Fiネットワークによって位置検知を行うドップラーイメージングという技術も活用できるとした。
ガートナーの調査によれば、産業オートメーション向け半導体の市場規模は2020〜2025年の6年間で年平均11%で成長する見込みだ。これに対して同市場におけるルネサスの売上高は、2025年に一部のASICがEOL(販売終了)を迎えることを含めても年平均14%の成長となり、EOLを除くと年平均18%の成長を見込んでいる。シェアも2020年時点の8%から2025年に9%に伸ばせるという。
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