半導体不足の遠因となった、旭化成の半導体工場火災で起こったこと工場ニュース(2/4 ページ)

» 2021年09月27日 07時00分 公開
[三島一孝MONOist]

「SF6-3」が発火した理由

photo 「SF6-3」の被害状況[クリックで拡大] 出所:旭化成

 推定発災装置である「SF6-3」の出火原因については、装置内要因および装置外要因による出火の調査を行った。装置内要因としては、熱源と電気系統からの出火の可能性を検討した。装置外要因としては、火気取り扱いや危険物取り扱いの不備や放火による出火の可能性について調査した。ちなみに「SF6-3」付近は事故後の被害が大きく、人の立ち入りが危険なエリアのため、災害用ドローンなどで装置付近の現場確認を行ったが、「SF6-3」は原形を留めていないほど焼失しており、推定発災装置付近の現場確認では、出火原因の推定には至らなかったという。

 まず、装置外の要因として、当日勤務の従業員および日勤勤務従業員のヒアリングから、不審行動などの情報がなかったため、放火の疑いは見いだせなかったとしている。また「SF6-3」はLAN ネットワークなどに接続しておらず、外部からコントロールできる装置ではないため、セキュリティ欠陥や不正なプログラムによる操作も考えにくいと結論付けている。

 さらに、「SF6-3」では、火気を取り扱うようなプロセスは存在しない他、従業員の火気持ち込みについての行動も確認できなかったために可能性が低いとした。さらに危険物取り扱いについても、IPA(イソプロピルアルコール)やシンナーなどの危険物の配管経路、IPAを取り扱う洗浄機およびモノシラン(SiH4)を取扱う装置などの配置、当日の状況についても異常がなく、出火の要因となる可能性は低いとしている。

 次に装置内の要因について検討した。「SF6-3」は、未反応チタンを薬液で除去する装置であり、製造運転において、火を使用したり、火災が発生するような高温状態にしたりする運転条件はない。また使用する薬液は、水酸化アンモニウム(濃度4.5%)と、過酸化水素(濃度6.0%)の混合水溶液で、危険物に該当するような可燃性や引火性を持つものではない。

 一方、製造運転時に熱源となる動作箇所については複数存在した。「SF6-3」の装置機能は大きく2つに区分される。装置上部(青枠)が電源制御部となり、製造運転を制御する電気基板類が格納されている。装置下部(赤枠)がプロセス部となり、薬液タンクや、製造処理で使われる回転用モーター、乾燥用の窒素(N2)を昇温するためのヒーターが格納されている。

photo 「SF6-3」における熱源箇所と温度、電力量[クリックで拡大] 出所:旭化成

 熱源が出火に及ぼす影響について、薬液タンクヒーターは常時30℃の温度を一定に保つように制御されている。窒素(N2)ヒーターは、待機時は110℃で一定、運転稼働時は180℃で一定となる。薬液タンクと窒素(N2)ヒーターのいずれの動作箇所においても、火災発生点となるような高温には至らない。

 一方、電気的負荷量が出火に及ぼす影響は、一般的に電気的過負荷がかかったり、オンオフを繰り返したりする運転の場合、部品の劣化や端子部の緩みが発生し、出火原因となる可能性が考えられる。ただ、過去の故障履歴から判断しても、出火原因として特定には至らなかった。

 そこで出火原因の推定を進めるために、類似装置である「SF6-4」をモデルとして状況を確認し、仮説として電気的要因18ケース、化学的要因1ケースを抽出し、可能性の高さを検証した。類似装置「SF6-4」は「SF6-3」と同じく、未反応チタン除去用装置で、8インチ(200mm)ウエハー用バッチ式全自動処理装置である。1997年に製造され、整備済みの中古装置として購入。2008年にFAB棟2階クリーンルームに設置されたものだ。こちらを使い、火災に対する安全機構の有無、使用電圧、保全点検の有無、可燃物との距離および電装部材の燃焼試験結果のそれぞれについて検証を行った。

 具体的には、電気的要因18ケースにおいて、周囲に火炎があるような高温状態でケーブルや基板などの電装部材が発火するかどうか、また発火後、熱源を与えなくなった際に自己消火性を有するかどうか燃焼試験を行った。

 難燃性評価では、いずれの部材においても自己消火性は確認できたが、バーナー接炎時は発火したことから、火災発生点となる可能性がある。特に「モーター基板」「ヒーター端子」については、バーナー離炎時においても、残炎が生じ、「ヒーター端子」については、火を保持したまま樹脂が溶融する現象が確認できたことから、可燃性樹脂に干渉した場合は、延焼する可能性がある。またケーブル関連は、自己消火性は確認できたが、継続的に熱源を与えると、離炎後も残炎時間が長くなる傾向があることから、延焼経路となる可能性があることが確認できた。

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